本研究は、幕末維新期に全国的に開花した、在地社会における政治・経済・文化・対外情報の集積である「風説留」及びそれに類する情報記録の所在調査を実施し、さらに収集された情報を史料学的に検討し、情報の内容・量・伝達の速度・情報ルート・情報収集の主体・目的・人間関係・地域性などを明らかにすることによって、身分制の枠を超えた幕末維新期の在地社会における情報伝達・情報収集の実態と特色を明らかにすることを目的とする。この目的を達成するため、Ⅰ在地社会に残された風説留類の所在調査及び所在目録の作成Ⅱ豪農の風説留類の翻刻と内容の検討Ⅲ複数の家の風説留類の比較研究という三つの課題を設定した。今年度は、最終年度にあたり現時点での成果としてⅡの豪農の「風説留」の一部を翻刻し、それまで発表した論文とともに簡易製本をし報告書1冊にまとめた。研究期間全体を通じての成果としては、課題Ⅰについては、関東近県の古文書目録から「風説留」に類するものを探す作業から開始し、データ化を試みつつあるが、予想以上に時間がかかり、今回完成をみなかったので、これからの課題として継続して実施することにした。課題Ⅱについては、すでに研究蓄積のある豪農の「風説留」について一部の翻刻が完成したのでこのこの部分について報告書を作成し、今後の比較検討の素材とすることにした。課題Ⅲについては、土浦の国学者色川三中の情報集をはじめ、本研究期間中に書籍やマイクロフィルムなどで収集した「風説留」類や、宿場問屋、豪農などの「風説留」類との比較検討を開始したが、これも完成までには至らず、多くは今後の課題として残された。
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