(1)今年度は最終年度であり、これまでには原本調査をできなかった調査箇所についての調査、およびこれまでに総めくりが不十分だった史料集のめくり作業を中心に行った。 (2)調査実施状況は、次の通りである。①宮城県角田市郷土資料館および茨城大学高橋研究室保管の伊達政宗起請文の調査、②福井県小浜市神宮寺、高浜町大成寺の所蔵文書等の調査、③高知県立歴史民俗資料館所蔵の長宗我部元親起請文および土佐神社所蔵の牛玉宝印版木等の調査、④滋賀県長浜市竹生島宝厳寺所蔵文書および牛玉宝印の調査、⑤米沢市上杉博物館所蔵の上杉家文書の起請文等調査、⑥新潟県立歴史博物館の越後文書宝翰集の調査などである。 (3)今年度の調査研究でもっとも重視した点のひとつは、起請文に残された血判の有無とその意味についての詳細な観察と調査である。その結果、血判は、これまでいわれているような、戦国時代には必ずされるものという常識は誤りであり、かつて千々和が主張したように、地域によって、あるいは大名家によっては、かなり遅い時期に発現するものであることがはっきりした。 (4)今年度の調査研究でもうひとつ重視した点は、牛玉宝印の中の、これまでの各種の調査ではあまり判然としていなかったものの確認であった。どのような牛玉宝印であるかといえば、たとえばいわゆる熊野牛玉である。それらのうち、たとえば碓井峠の牛玉宝印、それから神蔵牛玉は、比較的発行元を判別しやすいので、重点的にあつかった。これまでの調査の結果では、碓井峠の牛玉宝印は、江戸時代以降しかみえないことが確認できた。また神蔵牛玉は、これまでに7点の起請文を確認しているが、おおよそ3つの形に分かれることが確認できた。これらの点は、これまで誰も指摘していない重要な発見である。 (5)調査終了時に、國學院大學博物館で「起請文と牛玉宝印」の展覧会を開催し、これまでの調査成果を公開した。
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