研究課題/領域番号 |
23520831
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
松尾 正人 中央大学, 文学部, 教授 (00157265)
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キーワード | 五藤家文書 / 静岡藩 / 德川家達 / 山内容堂 / 山口県文書館 / 毛利家文書 / 忠正公伝史料 / 忠愛公伝史料 |
研究概要 |
平成24(2012)年度は、最初に土佐藩山内家の家老五藤家文書の調査・収集に着手し、6月13日から16日まで高知県安芸市の安芸市立歴史民俗資料館に出張した。同館所蔵の五藤家文書については、すでに東京大学史料編纂所が調査を実施しており、その調査報告を利用して事前に許可を得ていたので、初日から具体的な史料の閲覧と撮影を行うことができた。土佐藩内に御土居を持った有力領主の五藤家文書は、これまで活用されていなかっただけに、その分析が貴重である。次に8月25日から9月5日まで、英国のロンドンとエジンバラで德川家達関係の調査を行った。徳川幕府崩壊後に徳川家を相続し、静岡藩主となった家達は、廃藩置県後に静岡から東京に戻り、徳川家の当主として成長し、明治10(1877)年6月に英国へ留学している。德川家達の主な滞在先など、英国での留学生活を知るためにも現地調査が欠かせない。エジンバラ城を目前に見る家達の滞在先を確認し、現地を調査・見学できた意義は大きい。ロンドンの国立公文書館(The national archives)でも、同時期の日英関連資料の調査を進めた。さらに平成24(2012)年2月6日から同月8日までは、山口市の山口県文書館で毛利家文書の調査・収集を進めた。今回は、主に同館が所蔵する「両公伝史料仮目録」を利用し、同史料の具体的な活用について検討した。忠正・忠愛両公伝史料は二〇〇〇冊近い大部で、その関連資料の選別と原資料との照合作業は、旧大名華族・旧藩士族の実態を解明するために意義深い。また、これまで収集した史料・関係文献等については、中央大学の大学院生・学部生に依頼し、パソコンを用いた電子データ化を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
明治国家形成期における華族の政治史的研究をテーマとし、平成24(2012)年度は旧幕府の徳川家、幕末・維新に活躍した長州藩毛利家、そして土佐藩山内家に重点を置いて史料収集を進めてきた。最初に江戸開城後の徳川家の変遷に着目し、6歳で徳川家を相続した德川家達の動向を追究した。旧幕府静岡藩の廃藩置県に至る過程、家達の成長と周囲の期待、明治国家のもとでの家達の位置についての分析は、近代日本と士族の問題を考える上で重要な蓄積となる。特に明治6(1873)年の佐賀の乱から10年の西南戦争に至る士族反乱の時期において、徳川家およびその当主家達の動向は無視できない。同時期の旧大名華族についての研究は皆無に近く、これからの重要な研究課題と思われる。この点、旧大名家華族と士族一般とは、区別して考察を重ねて行きたい。長州藩毛利家、土佐藩山内家についても、同様な分析方法が有効と思われる。旧大名華族が、旧藩士族の没落、あるいは士族反乱、明治国家の形成にどのように対応したのかについて、具体的な研究を蓄積していくことが欠かせない。今年度の研究で徳川家達の足跡を追い、毛利家と山内家の動向を多面的に追究した蓄積は、次年度以降の継続的な成果に結実する。 廃藩置県後の徳川家、毛利家、山内家についての研究は、まだ緒についた段階である。德川家と当主家達については、静岡藩の時代、廃藩置県後の牛込戸山邸、その後の赤坂福吉町邸時代の生活など、不明な点が多い。徳川家と旧幕臣との関係、勝海舟との関係など、解明・考察すべき課題が多い。また長州藩毛利家の場合は、明治以降に脱隊騒動や萩の乱などを引き起こし、毛利家の家政もまた困難が少なくなかった。土佐藩山内家では、明治5年に山内容堂が死去し、翌6年の政変以後、土佐は自由民権運動の中心地になっていく。それらの渦中に置かれた旧大名華族の調査・分析は、日本近代史研究の欠かせない課題である。
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今後の研究の推進方策 |
山口県文書館の毛利家文庫に所蔵されている「忠愛公伝」の調査・収集を継続する。毛利家が旧藩士族の授産事業等に苦心・協力した実態とその課題を追及する。また徳川林政史研究所が管理している旧幕府徳川宗家の史料の全体的な把握を行いたい。同研究所と徳川記念財団等には、徳川家達の記録や徳川慶喜・尾張徳川家関係史料が残されており、それらの史料の閲覧・収集をはかり、研究の蓄積を進めたい。德川家達については、昨年12月に樋口雄彦『第十六代徳川家達―その後の徳川家と近代日本―』(祥伝社新書)が出版されたので、同書も活用しながら本研究の進展をはかりたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
昨年8月に英国で調査・収集した徳川家達関係史料について、写真・データ等の整理を行いたい。また、山口県文書館で調査・収集した毛利家文庫の忠正・忠愛両公伝史料についても、整理・分析を進める。高知県安芸市の安芸市立歴史民俗資料館に所蔵されている五藤家文書の確認作業を行う。山口県文書館と高知県立図書館等には、今後も出張調査を行い、史料の収集・分析を続けたい。徳川林政史研究所のもとにある旧幕府徳川宗家史料および尾張德川家史料については、閲覧・分析を重ねる。本研究のテーマである旧幕府徳川宗家および尾張徳川家関係の史料の調査を重ね、研究を着実に進展させたい。尾張徳川家関係については、明治期の海外留学にかかわる記録等が残存しており、それらの史料の撮影・筆写等を進め、具体的な分析を行い、明治国家形成期における華族の政治史的研究の前進をはかりたい。
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