研究課題/領域番号 |
23520831
|
研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
松尾 正人 中央大学, 文学部, 教授 (00157265)
|
キーワード | 徳川家達 / 毛利元徳 / 廃藩置県 / イギリス留学 / 大名華族 |
研究概要 |
平成25年度は、諸事情が重なって海外等への出張・調査ができなかった。25年4月以降は、国内での研究に全力をあげ、これまで調査・収集を行ってきた徳川家達関係史料について、その整理および関連史料の分析を進めた。具体的には、家達が明治10(1877)年に日本を発って留学した英国、特にエジンバラの滞在先に関する写真の整理、および関連史料の調査・収集を進めている。徳川家関係では、尾張徳川家の徳川義禮も同時期に英国へ留学しており、その折の旅行日記が徳川林政史研究所に残されている。判読の困難な箇所も存在するが、同研究所に通って筆写を継続している。徳川家関係者の英国留学とその実態、帰国後の活動に与えた影響などを分析し、その成果の取りまとめを企図している。 また前年に続いて、長州藩の毛利敬親・元徳関係史料の調査・収集を進めた。山口県文書館に出張し、同館の「毛利家文庫目録」から、敬親・元徳両者の維新期の動向、その後の活動に関係した史料を調査し、新たに元徳の家扶の日記を見つけることができた。現段階では、その概要把握に全力をあげ、写真撮影等を行っている。明治の旧大名の動向・生活がわかる興味深い史料で、写真の整理を進めると共に、その内容分析に着手している。この明治期の元徳については、銀行経営に参加すると共に、士族授産や北海道移民の支援にも尽力しており、近代の大名華族の実態解明が期待できる。 なお、大名華族については、「朝敵」とされた小田原の大久保家、静岡に移った徳川慶喜などの動向も追究し、小田原市立図書館や静岡県立図書館での史料調査を進めた。具体的には、小田原市立図書館の有信会文庫所蔵資料の閲覧・筆写、徳川慶喜の隠棲した静岡の宝台院や浮月楼などの調査・写真撮影、静岡県立図書館・静岡市立美術館などの調査を実施した。徳川幕府の直轄地であった甲府勤番支配の実態についても、調査・分析を重ねている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
明治国家形成期における華族の政治史的研究として、徳川、毛利、山内の旧大名華族の存在に注目し、平成25(2013)年度には特に江戸開城後の徳川家の対応を追究して、徳川家達が相続した同家の動向を明らかにする史料の収集・整理を進めた。旧幕府静岡藩については、静岡移封の苦難、徳川慶喜の後継者となった家達の成長と周囲の期待、静岡から東京へ復帰の過程を主に調査・研究している。静岡時代の徳川家については、『静岡県史』の成果を活用するとともに、静岡県立図書館所蔵の各種史料を調査し、実態的な考察を進めた。明治7(1874)年の佐賀の乱から10年の西南戦争に至る士族反乱の時期、徳川家およびその当主家達の動向は周囲から注目され、家達は若くして英国へ渡っている。家達の英国滞在については、エジンバラの滞在先を訪問し、ロンドンのナショナル・ア-カイブズ等で関連資料の調査を行った。 また、長州藩毛利家については、山口県文書館や県史編纂室などの調査・資料収集を実施してきた。今年度は特に山口県文書館の毛利家文庫の調査を通じて、最後の長州藩主毛利元徳の動向を明らかにする廃藩置県後の家扶日記を発見することができた。家扶日記を丹念に分析することで、廃藩置県後の大名家当主の生活の実態が明らかになるとともに、元徳の同時期の行動、毛利家と旧長州藩士族との関係を解明することが可能になる。明治4(1871)年の廃藩置県以後の旧藩大名家に関する研究はほとんど知られていないだけに、旧藩士族を含めた政治的・社会的な動向の実態を追究することに全力をあげたい。 なお、高知藩山内家については、同県安芸市の郷土資料館に出張し、山内家の家老の五藤家文書を調査して写真撮影を実施した。高知県立図書館の郷土資料室、宿毛市立図書館などでの調査を実施しているが、史料の残存状況とその利用を確認した上で、再度の調査を企図している。
|
今後の研究の推進方策 |
今回の山口県文書館の調査を通じて、長州藩の最後の藩主で後に公爵になった毛利元徳に関係した家扶の日記を見つけることができた。これまでの毛利元徳の「忠愛公伝」の調査・分析と並行して、同日記の解読を進めたい。平成26(2014)年度は、家扶日記に加えて周辺史料を丹念に収集・整理し、大名華族としての元徳の生活、その交流関係を明らかにする。この点、「忠愛公伝」を活用して、毛利家が旧藩士族の授産事業等に苦心・協力した実態とその課題を追究する。 また平成26年度は、大名華族としての元徳の生活、その交流関係の実態把握に向けて、元徳に近い華族あるいは側近の関係史料の調査と収集を進展させたい。徳川林政史研究所の徳川家関係史料などの調査・研究を進める。徳川宗家の家達については、近年に樋口雄彦『第十六代徳川家達―その後の徳川家と近代日本―』(祥伝社新書)が出版されたが、家達の諸記録を追究するとともに、徳川林政史研究所所蔵の尾張徳川家関係史料などを活用することで、研究の幅が広がることが期待できる。また、毛利元徳の関係日記の解読を通じて、旧大名華族の多面的な研究が進むように思う。なお、旧長州藩士については、明治以降に脱隊騒動や萩の乱などを引き起こし、毛利家の対応にも困難が少なくなかった。それらの実態分析も、今後の残された課題となっている。土佐藩山内家では、明治5年に山内容堂が死去し、翌6年の政変以後、土佐は自由民権運動の中心地になっていく。維新の激動と廃藩置県後の変革に直面し、その後も近代日本の形成に大きく関係した旧大名華族の調査・分析については、長州藩に加えて土佐・薩摩両藩との比較・検討も進めたい。
|
次年度の研究費の使用計画 |
当初の計画と若干の相違を生じたことによる。 図書購入および雑費にあてる。
|