研究課題/領域番号 |
23520832
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研究機関 | 東洋大学 |
研究代表者 |
白川部 達夫 東洋大学, 文学部, 教授 (40062872)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 肥料商 / 干鰯 / 〆粕 / 鯡粕 / 地域市場 |
研究概要 |
本研究は、その重要性にもかかわらず従来史料の欠如からまったく研究が進んでいなかった近世後期の農業における商品生産の発展をささえた肥料商とその創出している地域市場の展開を究明するために申請したものである。具体的には、これまで全く史料が欠けていた大坂干鰯屋仲間について、その有力メンバーであった近江屋市兵衛家の経営帳簿を発見してその分析を行うことが一つの柱であった。これについては文政~幕末までの販売帳簿のエクセルでのデータ化を進めた。またこれと並行して大坂周辺地域の農村部での肥料商史料の発掘・調査を行い、八尾市立歴史民俗博物館で河内国志紀郡田中井村角野家文書など史料調査と撮影を行った。また柏原の河岸問屋・肥料商であった大文字屋文書の一部が国文学研究資料館に所蔵されているので、この撮影を行った。ほかに大坂市場の展開のもとになる西国の干鰯生産地として九州佐伯、長崎、または流通の拠点として山口・広島県などの調査を行った。近世では最も商品的農業が進んだ先進地域の肥料商と地域市場のあり方を解明する重要な手がかりとなることが期待される。 さらに論文としては、後進地域の事例として下野国都賀郡西水代村田村家の肥料販売過程の分析を行い、この地でも19世紀前半には濃密な人格的結合を背景にした前貸しシステムから、仲介者の手形発行による非人格的な市場の広がりが検出でき、地域市場の展開が見られたことを明らかにした。以前の研究で同家の仕入れ過程と流通を明らかにしたので、これで仕入れ・販売の全体像が検証できたことになる。今後、関東の他の地域や先進地帯の事例と比較しながら検討を進めたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の一つの柱となっている大坂干鰯屋仲間の近江屋市兵衛家文書の経営分析では、近世帳簿の内、販売帳簿が幕末期頃までデータ化が完了しつつある。その内容は文政11年、同12年、天保3年、同5年、安政4年、同6年、同7年、明治5年である。今年度中にはデータ化が比較的容易なものは完了すると考えられる。この点では大きな成果があったといえる。しかし販売帳簿は6冊、買い付け帳簿が7冊が残っており、ほかにも金銭出入り帳・入り船帳などが残っている。データ化が一気に進まないのは、史料が難解で、項目も多岐にわたり、一定しないということがある。また必ずしも読解者が古文書を自由に読みこなすことができる訳ではないことも大きい。しかしある程度育てながらでなければ、進級・卒業で学生の状況が変化するのに対応できないので、やむを得ない面がある。 ほかの調査では、下野国都賀郡西水代田村家の肥料販売と地域市場のあり方の分析を論文化できたので、これを踏まえて、そこで現れた幕末期に於ける田村家の肥料販売の縮小の原因を小山・栃木各市の史料を調査して考える必要が出てきた。また大阪周辺では河内木綿の産地だった八尾市周辺での調査により農家の経営帳簿に肥料購入の記録が発見されたことが収穫で、さらに調査を進めて、撮影・分析を行うめどがついてきた。瀬戸内海・九州地区の調査は、十分成果が得られなかったが、現地を直接訪ねて史料を探すことも大事なので、やむを得ない面がある。 全体に達成度は初年度としては十分だったと評価している。今後、結果がまとまるように目標を絞っていくつもりである。
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今後の研究の推進方策 |
研究の目的は、近世後期の肥料商と地域市場の変動を明らかにすることにあるが、具体的には大きな柱として、大坂干鰯屋仲間である近江屋市兵衛家の経営分析とそこから見えてくる地域市場の変動をとらえることがあげられている。今年度もその課題にそって、帳簿のデータ化、その確認作業を推進し、時代別に化政―天保期と幕末―明治初年と分けるか、仕入れ・販売に分けるかして論文化して成果の公表を行いたい。 また地域市場という観点からは、大阪周辺地域の動向も視野に入れて、前回分析した尼崎周辺や河内八尾周辺の事情などを分析できれば、大坂干鰯屋の動きと合わせて見ることができると期待される。こうした点をさらに深めるためには昨年から続けている大阪府内の自治体史の目録検索で関連資料を確認して、細かな史料の発見・集積が欠かせない課題になっているので、推進したい。また大坂を中心に、近江・播磨・阿波など従来調査を重ねてきた場所についても、調査を行い新たな史料の発見、確保を進める。こうした調査は夏休みと春休みになるので、その間は関東地域の状況把握を行い史料の確保に努める。とくに大坂干鰯屋との関連で、江戸の干鰯問屋について残されている史料にも目を向けて収集に努めたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
昨年度は物品費では当初予定したノート型パソコンなどが低価格化で実用性のあるものが出たので、これに替えたので予算が縮減した。この分、アルバイト・調査に充てるはずが、予算決定の遅れや震災にともなう学年暦の変更で、調整が遅れたため若干の残金を残した。3月支払い分ではやや予算が残ったが、3月実施の調査で4月支払い分などもあるので、実質的に残りは計算以上に縮減されている。以下、次年度の研究費の使用計画は、繰り越し金額を含めて、大枠を示した。 本研究での基本は、大坂干鰯屋仲間近江屋市兵衛家や出張文書の分析であるので、その帳簿のデータ化を進めることが予算上も一番の課題である。当然、予算の主要部分がここに投じられる。史料のデータ化450千円、史料整理・撮影補助などに200千円のアルバイト代を宛てる。それとともに肥料商および流通、農業経営の研究上、ネックは史料の不足にあるので、その発掘・撮影が重要であり、研究代表者の努力はここに集中し、尼崎梶家文書、下野国都賀郡西水代村田村家文書、近江屋市兵衛文書の発見など、成果をあげた。そこで今年も各地で調査を実施して史料発見・撮影に努めたい。このための旅費について相当の配分を予定している。今年度は夏休みを利用して大阪を中心としてその周辺などにできるだけ調査を集中し、史料所在の全体像の確認に努める。夏休み以外の関東とその周辺で調査を進める。史料調査費には400千円をあてる。帳簿のデータ化と調査で予算の中心部分は消化されるが、この外には、文書館からの分析関連の写真のデジタルでの購入100千円、PC関連など消耗品に250千円程度をあてる。
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