研究課題/領域番号 |
23520839
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
鶴見 太郎 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (80288696)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 郷土研究 / 柳田国男 / 民俗 / 『民族』 / 郷土 |
研究概要 |
『民族』が発行された1925年から29年にかけて、民俗学者・郷土史家がどのように相互のネットワークを形成し、かつ柳田国男との連絡を行ったか、その動態について、基礎的なデータを把握することができた。雑誌の性格から見て、『民族』は必ずしも郷土研究・民俗学に特化したものではなく、適宜海外の文化人類学に関する研究紹介を掲載するなど、研究の第一線に立つ読書層を意識したものだった。これらは概ね、岡正雄ら若手文化人類学者の意向が反映されていた。しかしながら、柳田にとって本来『民族』の果たすべき役割とは、直截なデータを媒介とする地方研究者の相互交流であり、ふたつの編集方針の祖語は、そのまま誌面に反映されることとなった。本研究は後者、すなわち、柳田の想定する地方研究者の組織化に力点をおいて、「橋浦泰雄関係文書」の閲覧、補足的な整理を通して、その検証を行った。その概要は、以下の通りである。(1)いまだ、全国的な民俗学・郷土研究の組織が確立されていない当該時期にあって、その求心力は組織力のある人物がいるいくつかの地域に限定されていた。(2)それらの地域において、有力な活動家は『民族』の購読者となり、中央の柳田国男との関わりを積極的にもった。(3)一方の柳田にとって、『民族』で共同編集を行っている岡正雄、及び他の文化人類学者との確執が表面化するにあたって、むしろそれら地方の有力な研究者と交流することが、自身の民俗学に関する洞察を深めることに繋がった。今後は、地方研究者の所蔵する資料に比重を移しながら、これまでのデータとの照合を行って、さらなる当該期郷土研究のネットワーク形成を考察する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「橋浦泰雄関係文書」その他の資料の閲覧を通じて、『民族』に関わった郷土史家、民俗学者のほぼ6割程度について、(1)柳田国男との交流、(2)地域分布、(3)購読の継続性(4)階層の4点にわたって、その動態を把握することができた。 このうち、(3)については、柳田国男が直接編集に携わったという点で、『民族』の前身にあたる『郷土研究』、後身にあたる『民間伝承』との継続性という観点から考察を進め、『郷土研究』からそのまま流入して購読者となった者が多い一方で、『民族』から『民間伝承』を継続して購読した人物は意外に少ないことが分かった。その意味で、『民族』はあくまで後年の柳田民俗学の方法的基盤となった『民間伝承』から独立した編集方針、読者層を背景にしており、吟味の方法としても1930年代とは異なるアプローチが求められることが分かった。
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今後の研究の推進方策 |
これまで主として資料面において「橋浦泰雄関係文書」の網羅的な閲覧・整理に力点をおいていたため、それに対応する地方研究者の側からの視点に欠けるところがあった。 『民族』が発行されていた大正末から昭和初年は、大阪、信州(東筑摩)、新潟、鳥取など、いくつかの地域において柳田民俗学の組織化が目立ってすすんでおり、2年目となる2012年度は、それらの担い手となった郷土史家の側からの資料を発掘することに重心を移したい。すでに東筑摩郡については、当該期に同地の民俗調査を指導した胡桃澤勘内のご遺族から資料的な便宜を受けており、スムーズに資料収集が進んでいる。 目算としてはこれまで資料調査を行った大阪、新潟への調査を2,3回行うほか、それ以外にこれまで未開拓だった鳥取において県立図書館ほか、郷土史家の所蔵資料を閲覧して当該期の民俗学者の相互交流の全体像を把握する。
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次年度の研究費の使用計画 |
大阪、鳥取など、柳田民俗学の組織化が活発だった地域の郷土史について、集約的な資料調査をそれぞれの地域について2,3回程度行うほか、これまで継続してきた「橋浦泰雄関係文書」の調査を補足的に行うため、旅費がかなりの割合を占めることとなる(全体の6割程度 650000円見積)。さらに一部、資料の画像取り込み、パソコン入力の作業で大学院生のバイトを3名(各々時給1000円で50時間 計150000円見積)を予定している。書籍としては、大正末から昭和初期の郷土研究に関わる雑誌等の復刻資料、年に10数冊ほど刊行される柳田国男関連の単行本などをふくめて150000円を計上、さらに調査先からの資料移送費として80000円、その他文具等の消耗品として70000円を計上している。
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