研究課題/領域番号 |
23520841
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研究機関 | 皇學館大学 |
研究代表者 |
岡野 友彦 皇學館大学, 文学部, 教授 (40278411)
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研究分担者 |
永村 眞 日本女子大学, 文学部, 教授 (40107470)
漆原 徹 武蔵野大学, 文学部, 教授 (20248991)
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キーワード | 古文書学 / アーカイブス学 |
研究概要 |
本研究は「古文書学の再構築―文字列情報と非文字列情報の融合―」と題し、古文書上に書かれ、多くの場合活字化されて歴史学の「史料」として活用されている文字列情報と、和紙としての古文書そのものが本来有する非文字列情報とを融合した、新たなる古文書学を提唱するために、古文書学とアーカイブス学(文書保存学)との対話の可能性を探ることを目的とする。 上記の目的を達成するため、平成24年度はまず5月に、USBカメラとミクロメータースコープを組み合わせた顕微鏡デジタルカメラを購入し、これを用いて6月3日と9月3~4日に京都市で古文書調査と研究会を実施し、25年の3月9~10日に米沢市で展示見学会と研究会を実施した。 6月の調査では、東寺宝物館所蔵東寺文書のうち、上島有の提唱する第I類の料紙を顕微鏡で撮影したところ、その中にわずかな墨痕が認められることから、これが再生紙である可能性を発見した。次いで9月の調査では、京都府立総合資料館所蔵東寺百合文書のうち、同じく上島の提唱する第I類~第IV類の料紙を顕微鏡で撮影したところ、第II類と第IV類には米粉の添加が認められるものの、第I類と第III類には認められず、また第III類と第IV類には非繊維物質(柔細胞)の含有が認められるものの、第I類と第II類には認められないことが判明した。 これらの成果に基づき、9月の研究会では岡野友彦が「あらためて「宿紙」とは何か」という研究報告を、25年3月の研究会では高島晶彦が「古文書料紙の自然科学的手法による調査・研究―東寺百合文書料紙の検討―」という研究報告を行い、併せて米沢市上杉博物館でコレクション展「上杉家文書国宝への道―修復と紙の世界―」展を拝観した。 これらの調査・研究を通じて、上島の提唱する第I類~第IV類の科学的区別について、一定の見通しを得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
交付申請に際し、私たちは京都府立総合資料館所蔵の東寺百合文書に収められる室町幕府文書を素材として研究を進める予定であった。しかし、交付の決定を受けた平成23年度に入り、特に重要文化財指定を受けた古文書については、その保存の観点から、熟覧・撮影の機会が限られることが判明した。そこで東寺宝物館所蔵の東寺文書などへと調査の対象を切り替えたところ、平成24年度の後半に入り、改めて京都府立総合資料館の協力が得られることとなった。素材とする研究対象が二転したことで、研究計画に若干の遅れが出てしまったが、本来予定していた研究対象に戻って来ることができたとも言える。 また「和紙としての古文書そのものが本来有する非文字列情報」の中で、特に難解かつ重要な料紙についての研究が、顕微鏡デジタルカメラを用いた科学的手法として急速に発展していたため、適切な顕微鏡デジタルカメラの購入も含め、その研究手法に追いつく必要があり、本来の目的である「文字列情報との融合」、すなわち料紙と古文書様式との有機的関連性にまで進めなくなっていたことも、若干の遅れが出てしまった原因の一つと言える。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度までの調査・研究により、近年急速に進歩した顕微鏡デジタルカメラを用いた料紙研究の手法を学習し、またその手法によって上島有の提唱する第I類~第IV類の科学的分類がある程度可能となり、さらに京都府立総合資料館の協力も得られることとなったので、最終年度となる25年度は、京都府立総合資料館所蔵の東寺百合文書の中から、室町将軍家の御判御教書や寄進状などといった、一定の様式の古文書を、一定の年代に限って抽出し、その料紙を科学的に分析することで、古文書の様式(文字列情報)と古文書の料紙(非文字列情報)にどの程度の有機的関連性があるのか、明確にしていこうと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
京都府立総合資料館での東寺百合文書の調査が中心となるため、東京都や三重県在住の研究者が、一定の日数京都に集まることが可能な交通費・宿泊費として第一に使用したい。また米沢市上杉博物館で上杉家文書を調査させて頂く内諾も得ているので、米沢までの旅費としても使用したい。さらに25年度は最終年度なので、研究成果をまとめた報告書の作成(印刷・製本費)としても使用したいと考えている。
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