研究課題/領域番号 |
23520842
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研究機関 | 京都産業大学 |
研究代表者 |
吉野 秋二 京都産業大学, 文化学部, 准教授 (50403324)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 広隆寺 / 資財帳 / 地域史研究 / 善通寺 |
研究概要 |
本研究は、文献史学の立場から、寺院史史料を活用して、日本古代の地域社会の実態を復原し評価するものである。 古代地域史研究の史料的制約を乗り越えるためには、基準となる良質なケーススタディーの蓄積が肝要である。本研究では、資財帳、荘園絵図などの基本史料を、寺院経済史的視点から精密に分析する。さらに、対象地域に関する歴史地理学・考古学分野の調査・研究成果を踏まえ、綿密な現地踏査を実施する。以上により、寺院を核とする古代地域社会の復原を試みることとする。 本年度は、当初計画に従い、主として山城国広隆寺周辺地域を対象として研究を推進した。 まず、1.承和3年「広隆寺縁起」、2.「広隆寺資財帳」、3.「広隆寺資財交替実録帳」など9世紀の基本関連資料を再検討した。特に2.3.の水陸田章に記載された広隆寺周辺所領に関する情報を詳細に分析し、考古学・歴史地理学分野の調査研究成果と照合する作業を実施した。また、また第39回古代史サマーセミナーにおいて、2011年8月20日、太秦・花園地域の見学会の講師を担当し、実際に現地を踏査しながら参加した古代史研究者と意見交換を行った。 こうした作業の結果、1.9世紀広隆寺の資財管理方式の復原、2.広隆寺近辺に存在した安養寺の歴史的性格の解明、3.広隆寺周辺地域の開発史の復原、といった作業に成功した。研究成果の一部については、2011年6月1日、京都産業大学日本文化研究所例会において、吉野秋二「平安前期の広隆寺と周辺所領」と題して報告した。報告内容については、現在学術雑誌に投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、平成23年度を山城国広隆寺周辺地域、平成24年度を讃岐国善通寺周辺地域を対象とする個別研究にあて、その上で、最終平成25年度に総括的作業(他地域との比較・検討、補足調査、報告書・ホームページ製作など)を行う計画である。本年度は、この計画に従い山城国広隆寺周辺地域を対象とする個別研究を推進した。 研究成果の一部については、2011年6月1日、京都産業大学日本文化研究所例会において、吉野秋二「平安前期の広隆寺と周辺所領」と題する口頭報告を行った。その後、例会参加者からの助言も踏まえ報告内容を再精査し、年度末に、同題の学術論文を学術雑誌に投稿した。 また、吉野秋二「長岡宮「西宮」・「東宮」と嶋院」((財)向日市埋蔵文化財センター『向日市埋蔵文化財調査報告書』91 、119-124頁、2011年)を発表した。本論文は、長岡宮「西宮」推定遺構の発掘を受け、長岡宮中枢施設の構成と変遷を考察したものである。広隆寺周辺地域に関する研究成果とあわせ、平安初期の山城(背)国の地域史について理解を深めることができた。 山城国、特に葛野郡域は古代史料の残存度が高いが、平安時代の売券、嵯峨野地域の中世絵図などは、現時点では未検討である。また讃岐国善通寺周辺地域に関して予備調査を実施する予定であったが、出張の日程が立たず断念した。以上のように課題は残されているが、おおむね当初の計画通り、順調に研究を推進できた。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は、讃岐国善通寺周辺地域に関する研究を実施する。 善通寺周辺地域に関しては、善通寺文書が残存し、平安中期以後の善通寺の寺院経営を通時代的に考察することができる。特に、徳治2年「讃岐国善通寺伽藍並寺領絵図」など地域全体を面的に復原し得る史料が含まれる点は、貴重である。これらを綿密に分析した上で、考古学分野の調査研究成果、歴史地理学分野の研究成果と照合する作業を実施する 善通寺文書に関しては原本調査を実施する予定である。同文書に関しては、他の寺宝とあわせ、近年、香川県歴史博物管(現在改組され、香川県立ミュージーアム)による調査成果が行われ、その結果が「善通寺総合調査報告」(1)(2)(『香川県歴史博物館調査研究報告』2号、3号、2006年、2007年)にまとめられている。ただし、前述の「絵図」も含め重要な箇所で釈読が確定していない文書もある。ポイントを絞って調査を実施したい。香川県立ミュージアム調査担当者との意見交換を踏まえ、能率的に調査を実施したい。 「絵図」に関しては、京都大学総合博物館にも、明治期の模写本二枚がある。先行研究の考察を踏まえ、善通寺所蔵本との異同を調査する予定である。その他、宮内庁所蔵の久安元年「善通曼荼羅寺寺領注進状」とあわせ、所蔵者に許可をとり原本調査を実施する予定である。 なお最終平成25年度には、広隆寺周辺地域、善通寺周辺地域と他地域との比較・検討作業を実施する予定である。予備作業に関しては、平成24年度中に着手したい。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究代表者は、京都産業大学に着任して間もないこともあって、基本文献に関しても、『大日本史料』など所持していないものがある。京都地域史に関しては、近隣に京都府立総合資料館などもあり恵まれた環境にあるが、他府県を対象とする研究に関しては、不便も多い。そこで、前年度に引き続き、設備備品費の大部分は書籍の購入にあて、研究環境の充実を図る。 特に平成24年度研究対象とする香川県に関する図書(自治体史、発掘調査報告書など)は、大学に架蔵されていないものが多い。この機会に入手したい。ただし購入困難なものについては、必要な箇所をコピーすることになる。そのため、コピー用紙購入費用を消耗品費に、コピーのためのアルバイト雇用費を謝金に計上している。 平成24年度は、香川県善通寺市に約1週間程度の出張調査を予定している。調査では、埋蔵文化財関係者など現地の研究者と意見交換を行うと共に、研究成果の一部を報告する予定である。また、東京大学史料編纂所、宮内庁書陵部に、短期間の史料調査を予定している。以上の理由から、平成23年度と比較して若干多額の国内旅費を計上している。 平成23年度の研究成果は、学術雑誌等に発表し、論文別刷を広く古代史研究者・関係機関に配布する予定である。そのため、論文別刷費を計上している。なお、本研究では、資料整理、報告書等の校閲などの作業にアルバイトを雇用し、研究代表者の事務作業の省力化を図る。そのための経費を謝金として計上している。
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