研究課題/領域番号 |
23520842
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研究機関 | 京都産業大学 |
研究代表者 |
吉野 秋二 京都産業大学, 文化学部, 准教授 (50403324)
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キーワード | 広隆寺 / 資財帳 / 善通寺 / 善通寺近傍絵図 / 地域史研究 |
研究概要 |
本研究は、文献史学の立場から、寺院史史料を活用して、日本古代地域社会の実態を復原し、評価するものである。古代地域史研究の史料的制約を乗り越えるためには、基準となる良質なケーススタディーの蓄積が肝要である。本研究では、資財帳、荘園絵図(指図)などの基本史料を特に寺院経済史的視点から精密に分析する。さらに、対象地域に関する歴史地理学・考古学分野の調査・研究成果を踏まえ、綿密な現地踏査を実施し、寺院を核とする古代地域社会の復原を試みることとする。 本年度は、山城国広隆寺周辺地域を対象とする研究、讃岐国善通寺周辺地域を対象とする研究を推進した。 前者に関して、吉野秋二「平安前期の広隆寺と周辺所領」(『古代文化』第64巻3号、財団法人古代学協会、2012年12月)を発表した。本論文は、9世紀中・後期の広隆寺の資財管理、特に所領経営の実態を追究すると共に、当該期の広隆寺周辺地域の地域景観の復原を試みたものである。広隆寺の南西に存した安養寺なる古代寺院の活動、桂川用水の変遷など個別の具体的成果も折り込んだ。なお、2012年12月22日には、京都産業大学文化学部史跡ツアー(実地見学会)の講師として太秦・嵯峨野地域を案内し、研究成果を学生に紹介した。 後者に関しては、2012年5月8日、日本史研究会古代・中世合同部会で、口頭報告、吉野秋二『徳治2年「善通寺近傍絵図」の再検討―古代・中世讃岐平野の水利と開発―』 を実施した。報告では、「善通寺近傍絵図」と関連史料を分析し、古代・中世の善通寺周辺地域の地域開発の変遷を復原した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画では、平成23年度を山城国広隆寺周辺地域、平成24年度を讃岐国善通寺周辺地域を対象とする個別研究、最終平成25年度は、他地域との比較研究、補足調査、報告書製作にあてる予定であった。しかし、平成23年度の実施状況も踏まえ、若干 計画を変更して実施した。 本年度は、まず広隆寺周辺地域について、吉野秋二「平安前期の広隆寺と周辺所領」(『古代文化』第64巻3号、財団法人古代学協会、2012年12月)を発表した。本論文は、平安前期の広隆寺の寺院経営、特に所領経営の実態を復原すると共に、広隆寺周辺地域の開発状況をミクロ・マクロ両面から追究したものである。以上により、広隆寺周辺地域に関する研究は、ひとまず完成した。 一方、善通寺周辺地域に関しては、口頭報告、吉野秋二『徳治2年「善通寺近傍絵図」の再検討―古代・中世讃岐平野の水利と開発―』を行った。当初は、平成24年度中に口頭報告を活字化する予定であったが、その後、共通する史料を対象とした学術論文、木下晴一「「善通寺□□絵図」の再検討」(『条里制・古代都市研究』第27号、条里制・古代都市研究会、2012年)が発表された。木下論文は考古学・歴史地理学的見地からの研究で、研究代表者の研究とは、研究視角が異なり、結論にも相違点がある。しかしながら、追加調査も含め研究成果の補正が必要になったため、本年度中に口頭論文を活字化することは断念した。ただし、執筆のめどは立っている。 総じていえば、概ね当初の計画通り、順調に研究を推進できた。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、まず讃岐国善通寺周辺地域に関する研究の完成を目指す。論文執筆と平行して、徳治2年(1307)「讃岐国善通寺伽藍並寺領絵図」など、善通寺文書に関する原本調査、香川県立図書館、善通寺市役所、善通寺市郷土館などで地名調査、地籍図・農業用水資料などの調査を実施する予定である。香川県立ミュージアムの学芸員などと意見交換し、能率的に調査を実施する。「絵図」に関しては、京都大学総合博物館所蔵の明治期の模写本二枚との照合調査も行う。さらに宮内庁所蔵の久安元年(1145) 「善通曼荼羅寺寺領注進状」の原本調査を実施する予定である。 研究代表者は、数年前から菱田哲郎氏(京都府立大学)が幹事役を務める古代寺院史研究会に参加し、畿内地域の古代寺院について学際的視座から共同研究を行っている。2013年4月には、同研究会第24回例会(向日市文化資料館)において、口頭報告、吉野秋二「広隆寺霊験薬師移安伝承と願徳寺」を行い、広隆寺に霊験薬師が移安されたとされる諸寺院、特に山城国乙訓郡願徳寺(宝菩提院廃寺)について研究発表を行う予定である。5月以後も、古代寺院史研究会の活動を通じて、広隆寺と畿内地域諸寺院との比較研究を実施する予定である。 本年度後半は、3年間の研究成果をとりまとめた報告書を編集・刊行すると共に、研究成果を一般市民向けに分かりやすく解説したホームページを製作する。学芸員資格取得希望者をアルバイトとして雇用し、共同で編集・作業を実施する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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