本研究は、寺院史史料を活用して、日本古代地域社会の実態を復原するものである。平成23年度、24年度と山城国葛野郡広隆寺周辺地域、讃岐国多度郡善通寺周辺地域を対象として、資財帳、荘園絵図(指図)などを使用した研究を推進してきた。本年度は、前年度までの研究を踏まえ、以下のように研究を進めた。 まず善通寺周辺地域に関しては、研究成果を学術論文「徳治2年「善通寺近傍絵図」の再検討―古代・中世の寺院と地域開発―」として、発表するための執筆作業を進めた。内容は、徳治2年「善通寺近傍絵図」の史料的性格を再検討し、善通寺周辺地域の水利の変遷を復原したものである。善通寺檀越氏族佐伯氏の地域開発の歴史を中世から古代へと遡源的に考察している。 次に広隆寺に関する研究と関連して、口頭報告「広隆寺霊験薬師移安伝承と願徳寺」(第24回古代寺院史研究会、2013年、向日市文化資料館)を行った。報告は、平安前期に乙訓郡願徳寺から広隆寺に薬師仏が移安されたとする中世寺誌の伝承について、その史料的価値を検討したものである。広隆寺とその末寺される諸寺院との関係、葛野郡・乙訓郡・紀伊郡など山城国の秦氏居住地域の連関について考察する足がかりを得た。 また、古代の地域史に関する律令諸制度に関して、吉野秋二「京の雑徭」(『日本歴史』782号 34~36頁、2013年6月)を発表した、『延喜式』に京の正丁の雑徭が6日以下と規定されている点に着目、大宝令制の60日から30日、6日と日数が軽減される時期を確定し、その意義を論じたものである。 以上、研究課題に関して、関連する諸課題も含めて着実に研究を推進した。
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