研究課題/領域番号 |
23520843
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
田中 聡 立命館大学, 文学部, 教授 (10368011)
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キーワード | 日本近代史 / 史学史 / 教育史 / データベース / 地域研究 |
研究概要 |
2年目となる本年度は、昨年度に引き続き、教職員組合資料の整理を進めるとともに、研究協力者らとともに新たな資料の調査を行い、研究の方向性について再考した。 教職員組合資料については、京丹後市史編さん室に保管されている奥丹後教職員組合所蔵資料の調査を2012年9月23・24日に行い、目録作成を進め、全体の8割程度まで終えた。京都教職員組合所蔵資料についても目録作成を継続した。また同年8~9月・12月・2013年1~3月にかけて、立命館大学日本史学専攻共同研究室所蔵資料の整理を行い、1950年代以降の「夏期日本史公開講座」関連資料について、目録作成を進めた。さらに同志社大学で敗戦直後から1970年前後まで活動を続けた同志社歴史学研究会の会誌『同志社歴研』の存在を知り、2013年1~2月にかけてバックナンバーを収集した。これらの資料については3月30日に戦後京都史研究会にて報告し、井口和起氏らから有益な助言を得た。 先の科研(2007~2010年度基盤研究(c))以来、検討の対象としている紙芝居『祇園祭』に関連して、京都府立総合資料館等で同作品をベースとした戯曲・小説・映画化の過程に関する資料調査を行い、今後の研究方針を定めた。また同館が行った岩崎革也(初代の須知町長を務めた丹波地方の名望家)家の緊急資料調査(2013年3月27日)に研究協力者とともに参加した。明治末年の社会主義者らとの交流が分かる書簡や、戦後に至る日記等を多数確認し、簡易目録の作成に当たった。 さらに、他住民の地域に対する歴史意識、災害時の変化等について知見を広め、京都との差異について考えるため、東日本大震災での被災地(2012年7月21~24日)、9月16日、2013年3月7~10日)、出雲地方(9月19・20日)を踏査し、地域資料の収集や聴き取り等を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年から継続中の京都・奥丹後教職員組合所蔵資料の目録化、新たに調査に取りかかった立命館大学日本史学専攻共同研究室所蔵資料や『同志社歴研』の収集整理・目録作成作業に関しては着実に進展し、これらが1950年代の京都の大学生の問題関心や歴史意識を考える上で、他に例を見ない貴重な資料であることが判明しつつある。その一端は、関西の戦後史研究者に紹介し、また学部の授業でも取り上げている。また東日本大震災で被災した地域等の踏査を行い、現状を自ら実見したことは、住民の地域に対する意識のあり方を具体的に考える上で、非常に有用な経験となった。 こうした新たな検討課題が加わった結果、当初課題として挙げていた、自治体史編纂過程に関する資料収集や、目録作成中である三品彰英旧蔵資料への取り組みが予定よりやや遅れているが、これらについては新たな資料情報を得ており、今後調査を進める予定である。また研究活動を通して文学・教育学や映像研究の関係者・地方自治体の教育委員会・学芸員、地域住民等との連携が出来つつあり、そのネットワークを通して、岩崎革也家資料、映画『祇園祭』の各種シナリオ等、未調査の関連資料情報が集まるようになり、新展開への足がかりとなっている。なお戦後歴史学に関する聴き取り調査については、予定していた方の体調が思わしくなく、延期せざるを得なかった。新年度への継続課題としたい。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の成果を基盤として、京都・奥丹後地方教職員組合資料・立命館大学日本史学専攻共同研究室所蔵資料・『同志社歴研』については、目録作業を進めるとともに、関係者の聴き取り調査を行う。三品彰英・岩崎革也など、近現代京都の文化や思想を考える上で重要な人物を選び、その関連資料調査・目録作成を進める。また学会や地域史研究サークルの関係者等の聴き取りを積極的に行うとともに、現地調査を行って京都以外の地域との比較研究もさらに進める。 また、戦後京都の小学校の社会科教育において取り上げられていたラジオ劇台本や研究会誌『もくば』等を収集・分析し、主要部分の写真撮影・複写を行うとともに、関係者に1950-60年代の状況についてインタビューする。これまで未検討だった国民的歴史学運動の京都教育界への影響を知る上で重要な手がかりとなると思われる。 紙芝居『祇園祭』研究から派生した新たな課題として、戦後の京都における映画の受容状況に関する資料の収集を開始する。京都文化博物館所蔵の伊藤大輔文庫に映画『祇園祭』に関する各種資料が含まれており、また京都勤労者音楽協議会にも関連資料が多数残されていることが判明した。これらの調査・検討を進める。 成果の公表として、立命館大学夏期日本史公開講座については関係者の公開座談会を次年度中に企画する。また映画『祇園祭』に関しては、2013年6月22日の日本史研究会例会にて報告を予定している。目録が完成した資料については、順次公開し、一般に供していきたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度は新たな調査先と回数、同行する研究協力者の人数が増えたため、現地調査旅費の割合が予定以上に大きく、全体の7割に達した。なお2013年3月に奥丹後教組資料の一泊調査を行う予定で、当初考えていたカメラ撮影台やハンディビデオカメラ等の調査用機器の購入を見送ったが、都合によりこの調査を順延したため、平成24年度研究費に未使用学が生じた。これらを次年度の研究費にて購入したい。 また次年度は、資料調査・研究会の回数が増し、公開で行う企画も予定しているため、その運営・事務費、招聘者の旅費・資料整理アルバイト等の人件費の割合も増える見込みである。
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