本研究の目的は、1950 年代初頭を中心に全国各地で展開された国民的歴史学運動の、 京都地域(京都市及び周辺地域)における展開と定着の過程をとらえ、その地域社会や 歴史学研究への影響について明らかにすることである。この運動は、マルクス主義の図式的理解をもとに実態から遊離した地域史を提示する等の弊害を生んだが、他方では学校教育への地域史教材化、文化財保護運動の認知・活発化、住民による地域史サークル活動等が生まれるなどの成果も現れた。歴史学研究(者)と地域とを結びつける接点・契機という視点から、もう少し長い時間幅のもとでこの運動を再考する必要がある。 ただ、こうした問題について、京都地域では研究蓄積が不充分であり、申請代表者は2007~2010 年度科研(前科研)において、京都民科歴史部会や京都教職員組合(京教組)・奥丹後地方教職員組合(奥丹教組)所蔵の資料群を整理した。本科研ではこの成果を基盤としてさらに視野と対象を拡大し、1960~70 年代京都地域における住民の歴史意識の変容と専門的な歴史研究との相互関係等についての考察を進めた。年数回ペースで奥丹教組資料の目録補正・チェック作業を行い、これを完成させてテーマ別の解題を付した。また前科研にて目録化した京教組資料について研究協力者が論文を作成し、これらにより京都地域の教職員組合資料群の全貌が初めて明らかになりつつある。 さらに新たな検討課題として、①日本史学史・京都地域史の資料収集(横田健一・林弘子・岩崎革也・大槻隆・津田左右吉)、②住民の歴史・現状認識について東日本大震災被災地域との比較研究、③京都地域資料の発掘(上羽絵惣・吉見敏夫・青木完一・田島征彦)等に関する調査を研究協力者とともに展開し、その成果を冊子報告書にまとめた。今後はこれらを活かしつつ、関心を共有出来る多様な研究者・市民とともに研究をさらに進めていきたい。
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