研究課題/領域番号 |
23520854
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研究機関 | 滋賀県立琵琶湖博物館 |
研究代表者 |
橋本 道範 滋賀県立琵琶湖博物館, 研究部, 主任学芸員 (10344342)
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研究分担者 |
宮本 真二 滋賀県立琵琶湖博物館, 研究部, 主任学芸員 (60359271)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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キーワード | 中世史 / 環境史 / 内水面 / 琵琶湖 / 漁撈 / 消費 / 村落 / フナ属 |
研究概要 |
当該年度は、支配については「河成」史料のデータ・ベース作成作業、生業についてはフナ属の消費動向から漁撈実態を照射する作業を行った。その結果、消費研究を基盤とする環境史研究への二つの手掛かりが得られた。1、十五世紀における堅田漁撈の実態を追究し、旧暦三月から四月にかけての他浦地先水面での夜間密漁という凝縮的な資源利用のあり方こそがこの段階の歴史的特質であると措定した。次に、その主な対象魚種と漁期を検討し、十三世紀頃に名産化した「堅田の鮒」こそ漁獲対象であったと考えるのが最も妥当であり、産卵のため湖辺に接近する四月から六月のフナ属がターゲットであったと推定した。最後に、山科家の日記類を素材として首都京都の貴族社会におけるフナ属消費の実態解明を試み、繁殖直前である産卵期に消費のピーク、つまりは旬があることを明らかにした。2、下鴨神社の年中行事書等の分析から旧暦四月の賀茂祭と旧暦十一月の相嘗会という消費の二つの核が存在していたとの見通しを示した。しかし、神饌に用いられている生鮮魚介類の成魚の一年の生態と神饌との関わりはいま一つ不明確であるため、参考として山科家の日記類に登場するフナの記事よりその消費暦の概要を把握した。その結果、十五世紀の山科家ではグレゴリオ暦で「四月から六月」という贈答と貢納のピークと、「十二月から二月」という貢納のピークがあったことが明らかとなった。これを琵琶湖のフナ属三種の成魚の一年の生態と対比させてみると、「四月から六月」は産卵期に重なり、湖辺に寄りついた各種を比較的容易に捕獲しやすい時期にあったのに対し、「十二月から二月」は越冬の時期であり、沖合や湖岸の深みで過ごすフナ属を比較的まとまって捕獲することは難しい時期であった。この「十二月から二月」までの消費はあくまでも貢納のピークであり、漁撈が消費者の都合に応じる目的で展開していた可能性が指摘できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1、陸域と水域とが推移することを前提とした支配システムの解明については、山本隆志氏の研究を参考にして、平安時代・鎌倉時代の検注関係史料の一覧を作成するとともに、予定を繰り上げて東寺領播磨国矢野庄における「河成」関係史料のデータ・ベース構築に着手した。分析は緒に就いたばかりではあるが、「河成」の空間的な広がり、時間的な認定の様相が次第に明らかになってきた。したがって、計画はおおむね順調に進展していると判断した。2、推移するという環境そのものを利用した生業のあり方と村落との関わりについては、4月から6月という産卵期に「水辺推移帯」に来遊するフナ属に注目し、産卵期を旬とするフナ属の都市消費と産卵場である「水辺推移帯」へ夜間に侵入する堅田漁撈とが連動していたことを明らかにした。したがって、計画はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
1、陸域と水域とが推移することを前提とした支配システムの解明については、まず東寺領播磨国矢野庄における「河成」データ・ベースを完成させ、荘園支配における「河成」認定のあり方をモデル的に提示する。その際、時間軸上にその認定を位置づけるとともに、誰が代官であったかについても分析を行い、「河成」認定が領主と百姓等とのぎりぎりの闘争の結果であったという政治的性格を明らかにしたい。また、保立道久氏の議論を参照しながら、「無地」とされた「河成」の歴史的性格についても検討したい。2、推移するという環境そのものを利用した生業のあり方と村落との関わりについては、琵琶湖西部に位置する近江国蒲生郡奥嶋の「水辺移行帯」を対象として、その生態学的環境に応じた生業(特に漁撈)のあり方の復元を目指すとともに、十三世紀頃を画期として資源利用の原理が転換をはかられ始め、市場に対応しうるより効率的な生業へと組み替えられ、そうした新たな資源利用の形態に適合的な社会組織として村落が地域資源利用の主導権を握るという仮説を検討してみたい。そのため、東京大学史料編纂所等での史料調査を行うとともに、研究会での報告を積極的に行いたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
1、陸域と水域とが推移することを前提とした支配システムの解明については、東寺領播磨国矢野庄における「河成」データ・ベースについてアルバイトによる検索・入力作業を継続する。また、一定の成果が得られれば現地調査(兵庫県相生市)も行いたい。2、推移するという環境そのものを利用した生業のあり方と村落との関わりについては、近江国蒲生郡奥嶋に関する史料のうち、原本所在不明となっている若宮神社(近江八幡市白王)の影写本が東京大学史料編纂所に架蔵されているので、史料調査と複写を行う。また、その他長命寺文書、大島神社・奥津嶋神社文書等の史料のカード化をアルバイトによって行う。なお、研究成果については研究会(東京)で報告する計画である。
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