近世大坂の両替商および豪商についての都市社会史的な研究に資する史料・文献の収集およびその検討を行った。千草屋(平瀬)宗十郎家文書については、昨年度から残っていた未整理分を、調査補助者を雇用して、整理作業を継続した。銭屋(逸身)佐兵衛家文書については、熊本藩の明礬流通と同藩蔵屋敷との関係をテーマに、その成果を論考にまとめた。また、当主の動向や家族関係について、関連文書を収集しながら、とくに婚礼などの事例を素材に分析した。昨年度に引き続き、外部研究者と研究会を開催して、知見の・交流・獲得に努めた。これらを総合して、店全体の経営・奉公人・家族関係の全容をまとめるとともに、蔵屋敷とのさまざまな関係を明らかにし、それを公表する準備を進めた。また、大坂の両替商加嶋屋(長田家)文書を調査し、奉公人や出入関係史料など銭屋佐兵衛家と比較が可能な史料を選んで収集した。南組惣年寄安井家文書の新出史料により、家屋敷の所有状況や安井家の特権のあり方を中心に、17世紀の道頓堀とその周辺地域の開発の具体相が明らかとなった。とくに開発町人と町の関係、開発と遊郭・芝居との関係が明らかとなり、従来の研究史に変更を迫る内容を持っている。また、町の開発については、大坂の開発者(平野次郎兵衛)だけでなく京都などの巨大資本(那波屋)も関与し、17世紀終わりまで影響力を持っている町の存在が明らかとなり、新たな知見を得ることができた。これらをもとに新たな都市開発(町)の類型化を進める必要がある。それに伴い、江戸や京都の豪商・両替商に関する文献なども収集した。
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