研究課題/領域番号 |
23520866
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
荒武 達朗 徳島大学, 大学院ソシオ・アーツ・アンド・サイエンス研究部, 准教授 (60314829)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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キーワード | 満洲 / 旗人 / 民人 / 移民 |
研究概要 |
平成23年度は『琿春副都統衙門档案』という清代満洲地域の琿春地方の行政文書を重点的に研究した。本史料は乾隆年間では満洲語で書かれており、従来一部の研究者を除いて注目を集めてこなかった。その満洲語档案には、18世紀の満洲の辺境における満洲人と漢人の関係について生彩に富む具体像が描かれていることが分かった。 当該年度は本科研の準備期間に位置づけられる。主として取り組んだ文献収集も順調に進行した。名古屋ならびに京都において、主に近代の旗人関係の史料を閲覧した。本研究は対象時期を清朝中期に重点を置くものであるが、近代からも接近していく必要性があると言える。加えて満洲地域の三姓や寧古塔の档案もまたマイクロフィルム化され利用に供されていることが判明した。本研究の場合、むしろこれらの史料を精査することで清代中期満洲地域の研究を推進していくことが妥当ではないかと考えられる。これらの満洲語史料を視野に入れた検討によって従来の史料からだけでは分からない満洲地域の具体像が浮き上がってくるのである。 その他の基本的な史料の購入も進展した。特に19世紀末に東北地方と山東省の一部で刊行されていた新聞、及び地方史を中心に充実を図った。清末の段階ではこれらの細部には旗人をめぐる社会関係の実例が記されており、今後の研究に有用であることが分かる。 本年度の成果は近現代東北アジア地域史研究会の刊行する『ニューズレター』に発表した。本稿は上述の琿春地方の档案を用いて当地の旗人と民人の実態について考察したものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
プラス要因として、第一に24年度に発表する予定であった論考「『琿春副都統衙門档案』より見た18世紀後半の琿春地方の流民」を繰り上げて23年度中に刊行することが出来た。これにより今後の作業の見通しを立てることが出来た。 プラス要因の第二として、この論考で用いた『琿春副都統衙門档案』という史料に関連づけられる档案の存在が明らかになった。つまり琿春の副都統の管轄下に関する史料以外に、三姓や寧古塔の各副都統管轄区でも档案が作成されているのだが、その閲覧が比較的容易であるという。これにより満洲地域内の複数箇所の比較考察が可能となり、今後の研究推進の上で大きな手がかりになると考えられる。 ただしマイナス要因も一点指摘しておかねばならない。24年度以降に計画していた遼寧省鉄嶺県・開原県・遼陽県等での現地調査について、現地受け入れ側の都合により、遂行が困難であることが判明した。これにより24年度以降の研究の重点をやや変更することが必須となった。 もっともこれは研究の完全な停滞をあらわすものではない。上述のごとく、重点を琿春、三姓、寧古塔の各副都統衙門管轄区へと移していくことで、今後も順調なる進展が期待される。方法論は若干変更するが、解明すべき目的に大きな変化はないと言える。 以上のプラス要因2点、マイナス要因1点により、23年度の「研究の目的」の達成度は"おおむね順調に進展している"と総括できる。
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今後の研究の推進方策 |
先にも述べた24年度以降に計画していた「遼寧省鉄嶺県・開原県・遼陽県」現地調査について、受け入れ側の遼寧省各機関との調整の結果、受け入れに難色が示された。訪問は可能であるが学術的調査は困難とのことである。今後調整は継続するが、基本方針としては文献調査にやや重点をシフトすることとする。 23年度にて使用した『琿春副都統衙門档案』は24年度以降においても重要な史料でありつづける。加えて『三姓副都統衙門档案』、『寧古塔副都統衙門档案』といった档案も検討の対象として掲げる。これらの三者の比較研究により、より立体的な清朝中期の満洲地域の旗人・民人関係を解明していくことが可能となると考えられる。並びに23年度中に入手した地方史(吉林省を中心とする)、新聞史料の精査を行う。台湾及び東京にて档案並びに旗人関係の族譜を閲覧し、今後の考察のフィールドをより絞り込んでいくこととする。 本課題においては、満洲地域全体を考察対象とするのではない。24年度以降に対象地域を限定していく作業に入らねばならない。現時点では遼寧省から吉林省・黒龍江省へと対象を移すことを検討している。すなわち寧古塔、三姓、琿春がその候補としてあげることが出来る。これらの地域は旗人の集中して居住する地域であるのに加え、上述の『副都統衙門档案』が整備されているのである。これらを中核に据えることで、現地調査が不発に終わった場合の次善の策を講ずることが出来よう。
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次年度の研究費の使用計画 |
23年度より次年度繰越金36,438円の繰越金が生じた。これは12月の東大阪市出張(近現代東北アジア地域史研究大会参加)が、本来の開催地より近隣の当該市に変更になったこと、日帰り出張となったことにより発生した。24年度においてはこの余剰を併せて本来計画になかった東京外国語大学での調査に振り当てることとする。24年度配布予定の研究費と併せた使用計画については以下の通りとする。 1 物品費としては、(1)凱希メディアサービスより「全文検索機能付きの地方志DVD」が刊行されており、この中の黒龍江省および遼寧省の購入がある。可能であれば熱河省の地方志も加えて購入する。(2)東北地方及び山東省の近代に刊行された新聞を引き続き購入する。 2 旅費について、(1)国内では東京・つくば市での史料調査を予定している。東京外国語大学に所蔵されるマイクロフィルム版の『三姓副都統衙門档案』『寧古塔副都統衙門档案』、筑波大学に所蔵される『琿春副都統衙門档案』を閲覧・複写する。(2)台湾中央研究院・故宮博物院において満洲地域の族譜、軍機処档案などを閲覧・複写する。 3 人件費・謝金については、収集した档案のデータをエクセルに入力するために補助員を雇用する為の人件費を予定している。 4 その他の経費として、上記档案史料のマイクロフィルムから印刷する経費を計上する予定である。
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