本研究は今日もなお日韓両国間で燻り続ける「文化財問題」の歴史的な発端をなす部分について実史料に基づく検証を行ったものである。とりわけ、朝鮮総督府による「図書整理」、および旧韓国宮内府による「帝室財産整理」の結果、目録化された各種各様の朝鮮古典籍の一部が、韓国併合後の旧大韓帝国皇室(李王家)の実録を編纂する名目で宮内省図書寮に移管されていく経緯を明らかにした。就中、2011年に日本政府から韓国政府に「引き渡」された「儀軌」の他、今もなお宮内庁書陵部に保管されている朝鮮本の書誌情報を確認し、その来歴を子細に検討した。 本研究課題の遂行にあたっては、基本史料の把握とその収集に多くの労力が割かれた。特に宮内庁書陵部および宮内公文書館における史料調査が中心となり、また韓国(韓国学中央研究院・蔵書閣)でもその補完的な作業を実施した。これらの成果は3報の学会報告、および1報の論文公表につながった。 【学会報告】①「旧宮内省図書寮の朝鮮本収集と日韓の文化財問題」平成24年度九州史学会・朝鮮学部会、於:九州大学、2012年12月9日、②「二つの『高宗実録』― 李朝実録編纂と宮内省・李王職の相剋 ―」東アジア近代史学会第18回大会、於:中央大学、2013年6月15日 ③「日本宮内庁所蔵の李王家関連文書の現況と日本学界の李王職研究」2013蔵書閣学術大会・『日帝強占期 朝鮮王室文書の基礎研究』於:韓国学中央研究院、2013年11月29日 ※韓国語での報告、質疑応答 【学術論文】「旧宮内省図書寮の朝鮮本収集と日韓の文化財問題」『年報 朝鮮學』16号、2013年12月、77~108頁
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