研究課題/領域番号 |
23520872
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研究機関 | 東北学院大学 |
研究代表者 |
谷口 満 東北学院大学, 文学部, 教授 (10113672)
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キーワード | 楚式鬲・中国江漢地区 / 戦国楚簡・中国江漢地区 / 楚国都城・中国江漢地区 / 楚国水運・中国長江中流域 |
研究概要 |
湖北省西部地区・漢水上流地区・漢水東部地区出土の西周・春秋・戦国陶鬲を網羅的に調査し、いわゆる周式鬲から楚式鬲への移行時期を考察して、もっとも早いのが漢水上流地区における両周の際、ついで湖北省西部地区の春秋前期、もっとも晩いのが漢水東部地区の戦国中期であることを確認した。このことは、楚族の移動路線と楚国の拡大経路が漢水上流→湖北省西部→漢水東部であるという、従来からの想定を裏付けるものであり、一つの重要な成果であるということができる。なおこれと関連して、楚族が春秋初期の武王時代には、すでに湖北省西部荊州地区に到達していたことを、新出の戦国楚簡によって確認しえたのも、大きな成果である。 楚式鬲の起源地については、丹江流域を中心に陝西省東南部・河南省西南部・湖北省北部において鋭意現地調査を実施し、商南県過鳳楼遺跡など出土の陶鬲を精査して、いわゆる過鳳楼類型の西周鬲が楚式鬲の原初形態であることを確認した。このことは、楚族の西周時代の居地丹陽が丹江流域に存在していたことを有力に裏付けるものであり、長年の論争に一つの決着をつけえたものと自己評価している。この現地調査の過程で、西北大学・陝西省考古研究院・商洛博物館・南陽市文物考古研究所・襄陽市文物考古研究所の研究者から教示を受け、殷式鬲・周式鬲・楚式鬲の形態・紋飾・製法による区別をより正確に理解できえたのは、本研究課題の遂行に堅実な基礎を与えたものとして高く評価されると思う。 以上の成果の一部は、三峡奉節で開催された重慶市歴史地理専業委員会年次大会と日本中国出土資料学会の例会(成城大学)で口頭発表するとともに、『同専業委員会論文集』と『東北学院大学論集・歴史と文化』に論文として掲載した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
二年間及ぶ研究推進の達成度は75%と自己評価している。 第一に、本研究課題の中心資料である楚式鬲について、百件におよぶサンプルを精密に整理し、他陶鬲とは異なった、その形態・紋飾・製法の独自性を抽出することができた。つまり楚式鬲の考古学的概念を正確に確立しえたわけであり、この点においては目的の80%を達成したと考えている。ただ、楚式鬲の概念を決定するうえで必要不可欠な殷式鬲と周式鬲の概念については、中国研究者の研究成果に従ったのみで、自身が現物を精査して概念を把握したわけではない。この点において、残り20%を達成しえていないと評価している。 第二に、楚式鬲の起源地およびその後の拡散経路について、西周中期から戦国中期に至るほぼ全期間において、そのルートを復元することができた。楚文化の形成と展開の理解に不可欠な歴史地理的認識を獲得しえたわけであり、この点においては目的の80%を達成したと考えている。ただ、漢水上流から湖北省西部へ至るルート、湖北省西部から漢水東部へのルートの復元に際しては、所期の資料のすべてを入手しえないでいる。この点において、残り20%を達成しえていないと評価している。 第三に、以上の成果による楚国の形成と構造の復元について、西周から春秋中期に至る楚族の政治地理的動向を追跡して、水運拠点と祭祀拠点の掌握を主要な視点に、ほぼその全容を明らかにすることができた。楚国の構造理解に堅実な基礎を築きえたのであり、この点においては目的の70%を達成したと考えている。ただ、楚族そのものの社会構造・宗教構造については、史料上の困難もあっていまだ確たる見解を提示しえないでいる。この点において、残り30%を達成しえていないと評価している。 以上を総合して、全体としての達成度は75%である。
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今後の研究の推進方策 |
第一に、いまだ本格的な現地調査を実施しえていない、湖北省西部荊州地区・漢水東部随州地区・湖南省北部西部地区において、楚式鬲サンプルの収集・整理を実施し、楚式鬲の拡散経路をより正確に復元する。 第二に、周式鬲から楚式鬲への転換の地域差・時代差を江漢地区のほぼ全地域について、明らかにする。 第三に、漢水上流地区殷・周諸勢力の様相を参考に、楚族自身の社会構造・宗教構造を明らかにし、それがのちの楚国の政治体制にどのように反映されているかを考察する。 平成23・24年度の成果に、以上の成果をあわせて、まず「過鳳楼遺址的性質与過鳳楼文化的族属―楚文化形成的力学―」という論文を湖南省長沙で開催される四省楚文化研究会年次大会に提出し(25年10月)、あわせて中国研究者と資料・情報の交換を実施する。ついで、楚式鬲研究の決定版ともうべき「楚式鬲の研究―楚文化の形成と展開及びその変容―」を執筆し、これを「東北学院大学論集・歴史と文化」に掲載して公表する。さらに、ここ10年来の懸案である『楚国形成史の研究―歴史地理的考察―』の執筆に着手し、その粗稿を完成する。 本研究課題をさらに展開するためには、中国在地の研究者・研究組織とのより強い学術交流ネットワークの構築がぜひとも必要であり、早稲田大学長江流域文化研究所の協力をえて、武漢大学・湖北省文物考古研究所・荊州地区博物館・襄陽市文物考古研究所・南陽市文物考古研究所・随州曾都博物館などとの連携推進をさらに図りたいと考えている。 また、楚史と楚文化の総体的な研究のためには、歴史・文化・考古・民俗・文字の全分野にわたる研究者の動員が必要であり、その推進のために日本・中国の若手研究者による研究プロジェクトをたちあげ、科学研究費をはじめとする各種基金に応募したいと計画している。
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次年度の研究費の使用計画 |
一.湖北省西部荊州地区・漢水東側随州地区・湖南省北部岳陽長沙地区・同西部湘西自治州地区で、楚式鬲及び関連出土陶器の調査を実施する。その調査旅費として約45万円を計上する。 二.湖北省東部・湖南省北部西部の関連考古報告書がいまだ未購入であり、それらを購入する。その図書費として約10万円を計上する。 三.大学院生などに委嘱して、図版作成を中心とする補助作業に従事させる。その人件費として約8万円を計上する。 四.早稲田大学長江流域文化研究所などに出張して資料収集を実施する。その資料収集旅費として約7万円を計上する。 以上の研究費に使用に当たっては、規定に基づき諸経費を算出する。
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