研究課題
平成23年度の研究は計画に即し、天水放馬灘秦墓出土地図の解明のため、『山海経』(桐本)および『水経注』(村松)の再検討をおこなった。桐本は『山海経』について、これを再読し、特に西海経に神話的資料が多く含まれていることを発見し、当時の中国人の地理観念の中で、特に西方が重視されていたことを認識した。なお『山海経』は版本によって字句の移動が多いので、同書の十種類の版本を購入、または図書館で閲覧し、字句の異同を確認した。また『穆天子伝』は従来『山海経』に性格がきわめて類似しているとされる書物であり、これを研究会で講読し、訳注を作成し、その一部を出版した。村松は天水放馬灘秦墓出土地図の示す地域について、従前の諸研究をまとめるとともに、当該地域と考えられる藉水・西漢水に関する『水経注』およびその他の地理書の再検討をすすめた。両者の研究の報告を兼ねて、2012年4月には中国・西北大学の徐衛民教授、愛媛大学の藤田勝久教授、学習院大学の鶴間和幸教授を招聘し、シンポジウム「早期秦文化と天水地区」を開催した(慶應義塾大学)。シンポジウムでは藤田氏からは地図について、放馬灘秦墓の出土資料・文物全体から地図の意味を読み取るべきであること、里耶秦簡に地方官の役割に境界における物産を把握することなどの記載があり秦代のほかの出土資料も活用すべきであるとの指摘を受けた。また、徐氏からは早期秦文化の最近の発掘状況、特に李崖遺跡の紹介があった。鶴間氏からは天水地区特に礼県の塩や鉱物(金を含む)などの物産の秦における意義を考えるべきとの指摘を受けた。今後はシンポジウムの指摘を参考にさらに研究を深める予定である。
2: おおむね順調に進展している
研究の目的では以下の3点を挙げた。(1)放馬灘地図はどこの地域の地理情報を蓄積したものか。-放馬灘地図の示す領域の解明(2)天水放馬灘秦墓の墓主である地方官吏は何をする役人であったのか。-地方官吏と地理情報システムの解明(3)地図から地理書をどのように作成したのか-古代における地理情報と管理。これらの課題に対応するため、『山海経』『水経注』などの地理書および天水放馬灘秦墓地図を再検討し、その成果をシンポジウムという形で報告し、他の専門家の意見をお聞きした。その指摘をさらに進展させたい。
二年目は、まず、『山海経』および『水経注』のデータ・ベース化を進める(桐本・村松)。また、放馬灘秦墓出土地図の分析をすすめ、とくにコロナ衛星を活用して、当該地域の河川の流れと出土地図を画像を合わせて変化させて画像分析をすすめる(村松)。また、シンポジウムの指摘を受けて、里耶秦簡等の出土資料の分析を並行してすすめる(村松)。これと関連して出土文字資料の専門家である中国・武漢大学の陳偉教授を訪問し、共同研究を行う(桐本)。
本年度の残額は年度末に中国からの研究者招聘の際の差額によって生じた。次年度、当該研究者等から得る専門的知識の提供に関する謝礼金として使用する。(消耗品)衛星写真(データ)105,000 図書(一式)200,000 (旅費)海外 150,000 国内 50,000 (謝礼)資料整理 75,000 専門的知識の提供70,000 (その他)印刷費 50,000 通信運搬費50,000
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史学
巻: 80-4 ページ: 377-437