研究課題/領域番号 |
23520877
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
須江 隆 日本大学, 生物資源科学部, 教授 (90297797)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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キーワード | 東洋史 / 中国近世史 / 地域史 / 記録伝承 / 地方志 / 碑文 / 国際研究者交流 / アメリカ合衆国 |
研究概要 |
本年度は、主として研究全体の準備期間にあてた。特筆すべき成果としては、国際会議での議論を通じて、中国近世地域史研究に関する我が国の現状と課題を明確化し得たことがある。また各地方志の史料性を生成論的に解明すべく、系統的分析と序跋文の精読・解析を行うための史料調査を行った。具体的な研究実績は以下の通りである。 1、東京で開催された第56回国際東方学者会議シンポジウム「中国宋代における「地域」像-中央集権的文臣官僚支配国家下における「地域」史研究-」で、日本側からの問題提起者として研究発表を行った。この場で内外の研究者と議論を深化することにより、中国近世地域史研究に関する国際的な現状と課題を理解し、日本の当該研究の特徴と課題を浮き彫りにすることができた。 2、東北大学にて地域史研究に不可欠な元明時代の各種地誌及び碑文史料等を調査し、史料の一部を複写した。特に明代地方志の記述の画一性に関する知見が得られた。 3、京都大学で中国東南沿海部関連地方志や東アジア古地図などを調査した。併せて同所で開催された実学資料研究会・洋学史学会京都合同研究大会に出席の文化交流史を専門とする研究者より、日本の江戸時代の儒学者や地理学者たちが、中国の如何なる地誌をどのように受容していたのかに関する専門的知識の提供を受け、中国近世期における地方志の史料性探求に資する材料が存することを確認できた。 4、「中国典籍データベース」や地誌関連図書を新規購入し、既存の史料とあわせ、浙江の嘉興、台州、温州地区に関して、どのような門目・内容によって構成される、如何なる地方志が作成されたのか、あるいは残存しているのかを検索・整理した。また各地方志の序文等も検索・蒐集した。 5、各地方志の史料性の解明にあたっては、清朝考証学者による研究成果を無視でないので、彼等が残した後序や跋文を文集等から蒐集する作業にも着手した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、中国近世期の社会像を、宋~清の地方志及び碑文に見出せる長期的に伝承された記録の分析を通じて、地域史研究の視点から、社会文化史的側面に注目して再構築することにある。その達成に向けて今年度は研究全体の準備期間にあて、各種地方志の史料性を生成論的に解明すべく、悉皆調査に基づいた系統的分析と序跋文の精読・解析を行うこと、東京で開催が予定されていた第56回国際東方学者会議の中国近世地域史研究に関するシンポジウムで、日本側からの問題提起者として、この場で欧米の研究者との議論を深め、中国近世地域史研究に関する国際的な現状と課題を明確に把握することを当初の計画としていた。 このうち前者は、浙江の嘉興、台州、温州地区に関する作業を遂行するのに不可欠な史料を、東北大学等での調査や新規購入の中国典籍データベース及び図書で整備することができ、悉皆調査に基づいた系統的分析と序跋文の精読・解析に着手できている。但し当初予定していた福建の福州、興化、泉州等の地区についての同作業はまだ完全ではないので、おおむね順調に進展していると判断した。 後者については、実際に国際会議で研究発表を行い、内外の研究者との討論を通じ、中国近世地域史研究に関する我が国の現状と課題を浮き彫りにし得たので、計画通りと評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
先ずは、前年度未完であった福建の福州、興化、泉州等地区の地方志に関する史料調査と系統的整理、各地方志の序跋文の検索・蒐集作業を優先的に行う。それ以外については、当初の計画通りに推進する。 次年度は、本年度の成果を踏まえ、各種地方志に長期に亘り記録された叙述の抽出及び解析と、叙述の史料源を碑文の悉皆調査により突きとめる作業を展開し、各地方の記録の伝承過程を探る。具体的には、以下の通りである。 1、浙江・福建各地の地方志の史料性を生成論的に解明すべく、悉皆調査に基づいた系統的分析と序跋文の精読・解析を継続し、基礎的作業領域での研究を完了させる。 2、既存の設備図書、新規購入の電子化されたテキスト、主要大学で調査した史料を駆使し、各種地方志に長期に亘り記録された、各地方の叙述の抽出及び解析作業を本格化する。 3、抽出された記録については、その史料源を碑文の悉皆調査により突きとめ、どの地方に、如何なる記録が、どのような過程を経て、誰によって伝承され続けたのかを明らかする。 4、米国サンディエゴ市で開催される、第72回米国アジア学研究協会年次大会にて、地方志・碑文を活用した中国近世地域史研究に関するパネルを、米国在住の研究協力者等と組織し、中国地域史研究に関する議論を深めるとともに、ここまでの基礎的作業領域での個別研究の成果を英訳して海外に発信する。また国内の学会等でも成果の一部を公にし、論文化する。
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次年度の研究費の使用計画 |
各種地方志に長期に亘って記録された叙述の抽出及び解析と、多様な史料源に所収される各種碑文の悉皆調査の作業の効率化をはかるために、電子化された「中国典籍データベース」等を新規購入する(計150千円)。また陸続と刊行されつつある校勘が施された地方志や拓本・釈文を含む碑文関連図書についても、各種テキストを比較検討する上で不可欠であるので、必要に応じて購入する(計90千円)。 地域史料を多く含む『四庫全書』等の大型叢書の調査については、東北大学等の国内主要大学で行わざるをえないため、史料調査旅費を計上する。また東北中国学会での成果発表も行う予定のため、研究成果発表旅費も計上した(計150千円)。 次年度は、米国サンディエゴ市で開催される、第72回米国アジア学研究協会年次大会にて、地方志・碑文を活用した中国近世地域史研究に関するパネルを、米国在住の研究協力者等と組織し、地方志や碑文を活用した中国地域史研究に関する討論を行う予定である。そのための外国旅費(計150千円)と翻訳謝金(計120千円)を計上した。 なお、史料蒐集・整理に要するPCソフトの新製品が年度末に発売となったため、本年度の研究費の若干を次年度に繰り越して新規購入することにした。加えて次年度は、研究に要するOA関連消耗品、文房具、史料複写費等の経費なども計上した。
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