研究課題/領域番号 |
23520877
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
須江 隆 日本大学, 生物資源科学部, 教授 (90297797)
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キーワード | アジア・アフリカ史 / 中国近世史 / 地域史 / 記録伝承 / 地方志 / 碑文 / 国際情報交換 / アメリカ合衆国 |
研究概要 |
本年度は、前年度より継続している宋から清の各種地方志に長期にわたり記録・伝承されてきた叙述の抽出と解析、叙述の史料源を碑文で確認する作業をさらに進展させ、研究対象としている地域の記録伝承の過程を探った。主たる具体的な研究実績は、以下の通りである。 1、江浙の上海・嘉興地区の地方志調査・蒐集を、前年度に引き続き今年度も東北大学において実施した。特に乾隆『華亭県志』の調査を悉皆的に行い、関連史料の蒐集と解析につとめた。また明代に編集された稀覯史料、正徳『華亭県志』がマイクロフィルムとして同所に所蔵されているので、本研究に必要となる序跋文や目録、長期にわたり当地に伝承されてきた言説などを筆記・蒐集した。 2、浙江の台州、温州地区、福建の興化、泉州等の地区については、当該地区の地方志の現存状況や系譜の調査を継続した。また既存の設備図書を利用して、各地方志の序跋文の検索・蒐集と読解作業も進めた。 3、本研究の成果の一部を二編の論文(総論と各論)として公表するために、学術図書『中国宋代の地域像-専制国家と地域-』を、他の研究者二名と共同で編集し、岩田書院より出版した。 4、次年度早々に開催される第59回国際東方学者会議(ICES)東京会議シンポジウム「洪邁『夷堅志』の世界」で、同史料の地域史研究への応用の可能性について口頭発表をするための準備をした。特に同史料の史料性に着目した視点に関わる研究作業や、地方志を併用した福建の建寧府建陽県にまつわる言説の分析を重点的に行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、中国近世期の社会像を、宋から清の各種地方志及び碑文に見出せる長期的に伝承された記録の分析を通じて、地域史研究の視点から、社会文化史的側面に着目して再構築することにある。 この視点からの研究については、初年度に、内外の課題を明確化するために、国際会議で研究の動向や問題点まとめた口頭発表を行い、欧米の研究者とも討論した。その成果が、学術図書の出版という形で本年度中に公表された。 また現時点で、当初この研究で焦点を当てた中国東南沿海地方の内、浙江南部と福建各地区については、若干の作業の遅れがあるものの、江浙の蘇州、上海、嘉興、紹興、寧波地区については、順調に史料の調査・蒐集・読解・分析作業や史料の系譜の解明が進展している。従って、最終年度を迎えるに当たって、当該地方の社会文化史的独自性の解明に向けた基礎的作業が着実に進んでいるといえる。 以上の理由から、現在までの達成度としては、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は研究期間の最終年度に当たるので、4年間にわたる研究成果全体の総合化をはかる。 1、現時点で、若干の研究作業の遅れがある浙江南部と福建各地区については、早急に完了に向けて、史料の調査・蒐集・読解・分析を重点的に行い、基礎的作業を進展させる。その上で、本年度までの既存の蘇州、上海、嘉興、紹興、寧波地区における研究成果と新たな成果とを総合化することにより、中国近世期における東南沿海地域の社会文化史的独自性の解明を目指していく。 2、上記1の成果を踏まえて、可能な限り、中国及び東アジア海域で果たしてきた近世期の東南沿海地域の歴史的かつ現代的意義についても検討を加える。 3、次年度5月に東京で開催される第59回国際東方学者会議シンポジウムで、本研究の成果の一部として、中国近世地域史研究の可能性に関する口頭発表を行う。また次年度以降、段階的に研究成果を学術雑誌に公表していく。 4、4年次にわたり行われた本研究の全成果は、報告書を作成して提出する。
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次年度の研究費の使用計画 |
中国の出版事情により、新規購入する「中国近世地域史料関係図書」に変更が生じ、差額が出たため。 引き続き、宋から清の各種地方志に長期にわたって記録された叙述の抽出・解析作業と、多様な史料源に所収される各種碑文史料の悉皆調査を進展させるために、「中国近世地域史料関係図書」を新規購入する(計200千円)。上記作業の効率化をはかるため、「中国典籍データベース」等を新規購入する(計150千円)。 地域史料に関わる貴重なマイクロフィルムや、地域史料を多く含む『四庫全書』等の大型叢書の調査については、国内の主要大学で行わざるを得ないので、史料調査旅費を計上する。特に本年度までで研究作業が遅れている浙江南部と福建地区に関する史料は、既存の設備図書では不足するので、重点的にその作業を進めるために、次年度は、史料調査旅費を例年より多めに使用する予定である(50千円×6回=計300千円)。それにともなう史料複写費も計上する(計20千円)。その他、研究に要するOA関連消耗品等の諸経費も引き続き計上する。
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