最終年度に当たる本年度は、宋から清の各種地方志に長期間記録・伝承されてきた言説の抽出・解析とそれら言説の来源の調査を、継続中であった上海・嘉興地区に関して完了させるべく、重点的に行った。一方、作業が遅れていた福建地方についても、限られた地区に関してではあったが、同様の作業を実施した。その上で、それらの成果と既存の成果との総合化をはかるべく、4年間にわたる研究成果全体の総括に向けた作業にも着手した。主たる具体的な研究実績は、以下の通りである。 ①上海・嘉興地区の宋から清の各種地方志を、研究者の所属機関や東北大学で悉皆調査し、長期間記録・伝承されてきた言説の抽出・解析作業を継続した。また言説の史料源を突き止めるために、碑文の録文等の調査も併せて行った。 ②福建建州建陽県の地方志にみえる長期間記録された言説を調査し、その史料源の探索や、後世への記録や受容の過程を、地方志や筆記史料などを駆使して解明した。その作業の過程で、特に南宋の洪邁が編集した『夷堅志』には、彼が地方官として赴任した先が主に浙江・福建であったため、任地で伝聞した逸話で、東南沿海地方の地方志・碑文に記録されているものが多く含まれていることに気づいた。従って、各地の地域性の解明には、地方志・碑文に加え、筆記史料をも含めた言説の比較検討こそが極めて効果的であると確信するに至り、次なる研究段階への発展性を見出せた。 ③第59回国際東方学者会議(東京会議)シンポジウム「洪邁『夷堅志』の世界」で、本研究課題に関わる成果、特に筆記史料の地域史研究への新たな活用の可能性についての発表を行った。 その成果は、一般国民を読者層とする学術雑誌『アジア遊学』において公表し、広く社会にも還元した。 ④4年間にわたる研究実績については、総括を行った上で、「研究成果報告書」としてまとめて公にする見込みである。
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