本研究は、戦時期(1937~45年)上海の経済・社会の変容と日本の国策会社・中支那振興株式会社の関連性を歴史的に検証することを目的とする。日本政府により華中地域の占領地開発を目的に、1938年11月に設立された中支那振興株式会社に関する史料を調査・蒐集し、その組織と活動の全容を解明するための以下のような基礎研究を実施した。 第一に、中支那振興株式会社に関する史料調査・蒐集を国内外で行い、「中支那振興株式会社関係文献目録」を作成する作業に従事した。同会社の一次史料を最も多く所蔵する外務省外交史料館において関係ファイル(E.2.2.1)をすべて閲覧・調査して「中支那振興株式会社史料調査報告」を発表した。また、「中支那振興株式会社関係文献目録」・「日本国内所在中支那振興株式会社刊行資料目録」を発表した。中国においては関係史料を主に所蔵している南京歴史第二档案館が利用できない現状において調査は進展しなかった。上海市档案館や上海図書館にも関係史料は所蔵されているがその量は多くなく、系統的な研究に耐える史料ではない。それ以外にも杭州図書館や南京図書館、南京市档案館、江蘇省档案館において調査したが、同会社に直接に関係する史料は少ないが、関係会社を歴史的の考察する上で必要な史料はそれなりに存在することが判った。 第二に、中支那振興株式会社の概要については、「戦時上海の経済・社会変容と中支那振興株式会社に関する基礎的研究」をまとめた。同会社の歴史的な実相を捉えるために、中支那振興株式会社の一子会社=華中蚕糸株式会社による「復興および開発」の実態を明らかにし、それを経済的に支援したところの同会社の歴史的な役割を再検討した。中支那振興株式会社の研究が不振に陥っている要因を、これまでの先行研究の中に具体的に探り、それを踏まえて新たな研究の方向性を模索することを課題とする論考を発表した。
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