研究課題/領域番号 |
23520882
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研究機関 | 追手門学院大学 |
研究代表者 |
磯貝 健一 追手門学院大学, 国際教養学部, 准教授 (40351259)
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キーワード | 国際情報交換 / ウズベキスタン / 中央アジア / イスラーム / 法廷文書 / ロシア帝国 / 裁判 |
研究概要 |
本年度は8月にウズベキスタン共和国のタシュケント、ヒヴァ、フェルガナ各都市に出張し、本研究の対象である中央アジア・イスラーム法廷文書の撮影、閲覧作業を実施した。その際、撮影、閲覧した文書は、必ずしも本研究のテーマである裁判関連文書のみに限定されるものではないが、裁判関連文書は、これ以外のイスラーム法廷文書(各種の証書類)と内容面で密接に関連するものなので、この作業は本研究課題遂行のために必須のものである。 また今年度は、前年度に研究協力者を現地に派遣し、複写を入手した、ウズベキスタン共和国立中央古文書館所蔵、ロシア帝国領トルキスタン地域サマルカンド州の判決台帳の解読、研究を進めた。これを同共和国各地の博物館で撮影した紙片状の裁判関連文書と比較した結果、ロシア統治期に同帝国領トルキスタン地域に導入された判決台帳に記載される判決文とは、同一事件の裁判の過程で実際に作成された各種紙片状の文書(訴状、法鑑定文書、判決概要)から必要なデータのみを抜き取り、一通の文書に纏めたものであることが明らかになった。ただしこのことは、裁判の過程で実際に作成されはしたものの、台帳に収録する判決文正本を起草するにあたり不必要とみなされた文書(当該裁判において敗北した側が提出した法鑑定文書等)の内容が、判決文正本からは抜け落ちていることを意味する。当時のイスラーム法廷を舞台とする紛争解決過程を解明するためには、裁判に勝利した側の主張やその論拠を主に収録する台帳記載の判決文正本のみでなく、判決文正本の作成過程で捨象された文書も視野に入れる必要があることは言うまでもない。従って、本作業の結果、判決文正本に言及されない各種紙片状文書が、極めて高い資料的価値を有することが改めて明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度、今年度ともに本務校における学務が予想以上に過大であったため、当初の研究計画に沿った海外出張を完全に実施することができず、この点に於いては研究作業に支障が生じている。しかしながら、本研究費を使用して収集した各種資料が予想以上に高い価値を有するものであることが研究作業の過程で明らかとなったため、本来の研究目的である、中央アジア・イスラーム法廷における紛争解決過程を解明するという作業自体は極めて順調に進展していると言い得る。このため、「(2)おおむね順調に進展している。」との自己評価を行った。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は、これまで本研究費を使用して収集した資料に基づき、ソ連邦成立直前の中央アジア・イスラーム法廷における紛争解決システムの解明を進める。とくに、ロシア帝国領トルキスタン地域に由来する判決台帳、および、紙片状裁判関連文書と、法廷台帳が存在しなかった同時期の保護国領内(ブハラ・アミール国とヒヴァ・ハーン国)に出自を持つ紙片状裁判文書の比較作業を通じ、ロシア帝国による中央アジア支配が、イスラーム法廷を舞台とする中央アジア・ムスリム定住民地域の紛争解決過程にもたらした影響につき、古文書研究の視点から見解を提出する。 諸外国における近年の研究では、主としてロシア帝国領トルキスタン地域の法廷台帳を利用しつつ、当該地域における伝統的法制度の変化を跡付けようとする作業に力点が置かれているが、そこでは必ずしもロシア以前と以後の連続性について、現地語史料に基づく実証的な見解が提示されているわけではない。今後の本研究作業においては、「ロシア以前」の裁判システムが温存された保護国領内の紙片状裁判関連文書と、「ロシア以後」の台帳、および、紙片状裁判関連文書を対比させることにより、両者の連続性を明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究は平成23年度より25年度にいたる3年間を研究実施期間として申請されたものであるから、平成25年度も研究費が生じる。 平成25年度は、夏季にウズベキスタン共和国に2週間程度出張し、同共和国立中央古文書館にてロシア帝国領トルキスタン地域で作成されたイスラーム法廷判決台帳を閲覧する予定である。また、海外旅費を差し引いた残額は、イスラーム法廷文書研究のために不可欠となる各種の法学書や研究書、および、辞書等の工具書の購入費用に充てる。
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