【作業内容】 本年度は、2月21日から3月3日にかけて研究協力者の杉山雅樹と共にウズベキスタン共和国立中央古文書館に出張し、ロシア帝国トルキスタン地方サマルカンド州、および、フェルガナ州で作成された判決台帳を閲覧するとともに、その一部を複写した。 また、年度全般を通じ、これまでウズベキスタン共和国内で収集した紙片状のシャリーア裁判文書、および、ロシア帝政期の判決台帳の分析を行い、2篇の論文を発表した。 【作業の意義】 従来の帝政期中央アジア・シャリーア法廷裁判の研究は、主に帝政期に作成された判決台帳に依拠したものであり、紙片状の裁判文書を併用するにしても、その利用の仕方は限定的なものであった。しかしながら、本研究においては判決台帳と紙片状裁判文書双方のテキストを可能なかぎり対比させることにより、判決台帳には記載されず、それゆえ従来の研究においては見落とされていた各種の裁判上の手続きや、さらには、当時の裁判の遂行過程で頻繁に作成されたものの、判決台帳のテキストのみからはその存在自体を知り得ない文書類型が存在していたことを証明した。 また、上記出張中に閲覧した帝政期フェルガナ州の判決台帳のテキストを分析することにより、帝政期中央アジアのシャリーア法廷裁判がシャリーア(=イスラーム法)の規定通りに実施され、当時の法廷で発行された紙片状の裁判文書も、帝政期以前のそれと同様の体裁で作成されていたのにもかかわらず、判決台帳のテキストはおそらく意図的に、紙片状文書の書式を無視した体裁をとっていることが明らかになった。現時点ではあくまで推測の域を出ないが、このことは、帝政期になって導入された判決台帳の書式を、ロシア当局者にとって理解可能なものとするなんらかの意図が存在したことを示唆するものである。
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