研究課題/領域番号 |
23520885
|
研究機関 | 立命館アジア太平洋大学 |
研究代表者 |
吉本 智慧子 立命館アジア太平洋大学, アジア太平洋学部, 教授 (70331105)
|
キーワード | 中国内モンゴル / 遼史 / 契丹文墓誌 / 漢文墓誌 / 契丹大字 / 契丹小字 |
研究概要 |
本課題「遼史の再構築─契丹文墓誌を主資料として─」は、前著『契丹文墓誌より見た遼史』(松香堂、2006)公刊後の新資料の増加、研究の深化を踏まえ、墓誌出土地の現地調査を通じて、確実な知見を蓄積することで、『遼史』の枢要部分に対する全面的な再検討を試みるものである。本年度は研究計画の二年目として、初年度の実績を受けて最終年度の礎を築くという重要な期間にあたるものであり、新出墓誌のある地区において現地調査を行い、出土資料の収集・分析に基づき、それに反映される文献史料に未解明の諸問題に引き続き取り組んだ。本年度においては以下のような作業を進めた。 ①新出墓誌の所在地に赴き、墓誌の記載に基づき墓地の地理的方位・墓室に納める副葬品などを綿密に調査し、大量の新知見を得た。 ②新出墓誌を全体的に翻訳するにあたって、大量の新出単語を既存のデータベースに補充し、契丹大小字の音価推定・契丹語文法の構造分析に向かって大きく前進した。 ③以上の資料と正史の双方に現れる契丹人について、記述内容の比較研究を行った。 ④墓誌出土地における詳細な情報を整理したうえ、次年度の現地調査の細目を決定した。 以上の作業によって、新出契丹文墓誌および漢文墓誌と正史その他の漢文史料の記述内容との比較研究を行った。以上の作業に併行して、『遼史』関連の文献史料並びに関連研究を包括的に整理し、『遼史』の世表・皇族表・外戚表の全面的再構成を成し遂げたうえで、営衛志・百官志・列伝を中心に検討を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今年度は新出墓誌の豊富さに恵まれ、大量の契丹語彙が一斉に解読できたことで、契丹大小字の音価推定及び契丹語文法再建の深化につながり、契丹文に現れる契丹人自身の歴史認識を一層深く理解できるようになった。こうした成果を遼史研究に全面的に運用した成果の一端として、『新出契丹史料の研究』(吉本道雅と共著。松香堂、2012)を科研費学術成果公開促進費(学術図書)によって刊行した。この書物では、『契丹文墓誌より見た遼史』公刊以降出土した7件の契丹文墓誌と9件の漢文墓誌に全面的な翻訳・研究を施すことによって、遼朝成立以前の契丹部族連盟の構成及び建国後の皇族帳と国舅帳の実態、とりわけ遙輦氏と耶律氏の発祥地とされる陶猥思迭剌部の形成過程について多数の史実を解明した。それによってもたらされる豊富な新知見は、契丹(遼)史のみならず、広く東ユーラシア各民族史を対象とする研究にも大きく裨益するものになると言える。
|
今後の研究の推進方策 |
本年度は、(1)これまでに実施した契丹に関する歴史学的作業に基づき、新出の考古学的資料と関連文献の記述を比較検討し、「『遼史』の再構築」という総括的課題のもとに、すでに膨大な研究成果(2011年度の著書『韓半島から眺めた契丹・女真』と本年度の著書『新出契丹史料の研究』に代表される)が獲得された『遼史』の世表・皇族表・外戚表及び一部の列伝・営衛志・百官志に引き続き、他の志・表・列伝の全面的な再構築に取り組む。(2) これまでに実施した契丹に関する言語学的作業に基づき、新出契丹文資料の解読・翻訳を進め、それに基づき『契丹語辞典II』の編纂につとめる。(3)契丹発祥地の考古学的調査に関する日中共同研究を発足させ、進展をはかる。
|
次年度の研究費の使用計画 |
前年度と同じように、旅費・物品費・その他を主とする項目に使用する予定である。旅費については、墓誌出土の確実かつ最新の情報を把握するため最低3回の海外調査を予定している。物品費とその他については、本研究の基礎資料とする墓誌拓本の購入、拓本制作・拓本を保存するための表装、墓誌資料の撮影、新出の遼史と考古学的資料の購入、墓誌データの処理・保存及びデータベース拡充を目的とするコンピュータ周辺機器と消耗品の購入、などを予定している。
|