本研究の目的は、ハプスブルク家統治下のハンガリーを対象として、近世多民族帝国における地域社会形成に、宗教というファクターが果たした役割を明らかにすることであった。 最終年度にあたる本年度には、(1)当初予定していた史料収集を完了してその分析を行い、(2)研究発表および成果のとりまとめを進めた。 (1)に関しては、昨年度に実施した「宗教エージェント局」(地方のプロテスタント信者らの宗教問題に関する訴状を受け付け、中央当局に解決を陳情する組織)の史料群の補遺収集を行った他、ジチ家という大貴族家の文書館に範囲を限定して、地方で直接信者らと交わった領主側史料の収集を行った。あわせて、すでに公刊されている改革派教会の教会巡察記録の分析を進めた。 (2)に関しては、ハンガリー西部地区を中心に、戦乱後の復興期に出自や母語を異にする諸集団がコミュニティー形成をするなかで教会が果たした役割や、その際にみられた宗派間の協力とせめぎ合いについて研究会での報告等をおこなった。ただし、史料の分析を時間内に終えることに想定以上の時間を要したため、全体の成果発表は最終年度以降にずれ込む見通しとなってしまった。 全体の成果発表においては、復興期の社会の中で諸教会が地域のいわば「準公共財」として様々な領域で地域形成・発展に大きな役割を果たしたこと、ハプスブルク王権が宗教(教会)を媒介に統治を強化しようとした際にも、自ら奉ずるカトリックの信仰のみを強要するのでなく、各宗派の役割に配慮していたこと、などを具体的な諸問題に即して提示する。
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