研究課題/領域番号 |
23520890
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
橋川 健竜 東京大学, 総合文化研究科, 准教授 (30361405)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 国外機関研究調査 |
研究概要 |
本年度は研究の初年度であり、また本研究課題は研究代表者にとって新しい研究主題であるため、研究を進める上で必要な一次史料の入手と、関連分野の先行研究の収集を活動の中心とした。代表者の研究機関では史料の所蔵状況に問題があったが、トマス・ポーノルの主要著作(『植民地統治論』第1版~第5版、『北米植民地地勢詳解』など)を入手したほか、1750年代にポーノルと密な関係を保ち、先住民に関する情報を彼に提供したサー・ウィリアム・ジョンソンの全集も手に入れることができた。これらについて関係個所の検討を行い、先行研究の史料の用い方の傾向を把握することができた。また『植民地統治論』については、各版ごとの文面の異同を含めて熟読を行っている。 本研究は18世紀先住民史の研究成果を吸収して活用することを想定しているが、研究代表者の所属組織であるアメリカ太平洋地域研究センター(以下CPAS)では、この分野の文献の蓄積が薄い。本研究課題の研究費により、この分野における近年の重要な研究の多くを入手し、これを学外一般に開かれた専門図書館であるCPASで公開できた。日本のアメリカ研究全体の基盤面での底上げへの貢献であると考えている。 史料・文献の収集・読解のほか、平成23年度3月にはハンティントン図書館(アメリカ・カリフォルニア州サンマリノ)を訪問して、1750年代のポーノルの自筆史料を閲覧した。同図書館にはポーノルが自らの先住民観を披歴し、それを踏まえて内陸部植民地の設立を提言する長文の未刊行史料が複数所蔵されている。彼の考えるブリテン帝国の構造や統治機構の枠組み、帝国住民がそれぞれの立場で果たすとされる役割などが具体的に示されているこれらの史料は、本研究にとって中核的史料にあたる。この海外史料調査により、平成24年度に向けて重要な足がかりを得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究初年度としては、研究の遂行に必須の一次史料を多数、入手ないし閲覧することができた。また近年進展が著しい18世紀先住民史研究について把握するための環境の整備をかなり進めることができた。本研究課題は研究代表者にとって新しい研究主題であるため、また日本全体でみても研究者数が大変少ない主題であるため、これらの収集作業の前提となる的確な書誌情報の入手に多少の時間がかかったが、遅れていると呼ぶに値するレベルではない。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は平成23年度に得た知見をもとに、関連する重要資料に検討をひろげる。18世紀ブリテン本国の植民地政策決定中枢の史料は、研究代表者の所属するCPASが抜粋ながらマイクロフィルム形式で所蔵している(British Public Record Office, Colonial Office, Class 5 Files)。これを閲覧してポーノルの史料と突き合わせる作業をするとともに、抜粋形式のために漏れている史料を閲覧するため、夏にアメリカ議会図書館(完全版のマイクロフィルムを所蔵)での調査を行う。並行して、18世紀イギリス政治史そのものについての理解を深める。この点では、所属機関のイギリス史を専門とする同僚教員の助言も仰ぐこととする。これらを踏まえて、年度末の春に年度2回目の海外史料調査をおこなう。ハンティントン図書館を再訪し、マサチューセッツ植民地総督を務めていた1760年代のポーノルの書簡を閲覧することを予定している。 本年度は準備段階の執筆作業にもある程度力を注ぐ。重要な先行研究いくつかについて書評を執筆・公開し、その論点の十全な把握を図る。また秋~冬をめどに、研究の進行状況報告を行うことにしたい。代表者も関係している「初期アメリカ学会」(代表:増井志津代・上智大学教授)の研究会を予定している。また、本研究の知見も盛り込む形で北米植民地時代史の概説を執筆する(数年度に共著として刊行の予定)。
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次年度の研究費の使用計画 |
昨年度に配布を受けた研究費については、国内外いずれについても安価な宿泊施設を利用することで旅費支出を抑え、また謝金の支出などを控えたため、四万円弱の研究費を平成24年度に繰り越すこととなった。 平成24年度は、昨年度に引き続き先行研究と史料の収集に研究費を使用する。加えて、「今後の研究の推進方策」欄に記したとおり、1回でなく2回の海外出張を予定しており、8月のワシントンなど、宿泊費が高くなる時期・渡航先が含まれる。また同じく「推進方策」欄に記したとおり、マイクロフィルム化された手稿史料の分析に時間をかける予定だが、これのプリントアウトにまとまった形で印刷料金を使うことになる。なお、入手した一次史料の的確な管理と円滑な執筆作業のため、電子機器の買い替えも検討する。これらにより、本年度の繰り越しを消化する。
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