研究課題/領域番号 |
23520890
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
橋川 健竜 東京大学, 総合文化研究科, 准教授 (30361405)
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キーワード | 国際情報交換 / アメリカ合衆国 / イギリス |
研究概要 |
本研究の主題であるトマス・ポーノルの北米英領植民地滞在中の活動について、調査を行った。ポーノルはニューヨーク植民地総督の施設秘書として1753年に北米入りして数年滞在し、また1750年代後半にはマサチューセッツ植民地の総督を務めて、七年戦争中の北米での戦争遂行に深く関与している。イギリスの旧Public Record Office (現the National Archive)には、ポーノルがこれらの植民地滞在中にブリテン政府に送った報告書の原版が所蔵されており、彼の北米植民地理解について突っ込んだ見解が見られるので、この資料のマイクロフィルム版を閲覧して彼の報告書を複数入手した。そこには彼独自の英仏北米植民地比較と、統治の体制に関する提言が見られる。 これらは彼独自の大胆な把握として興味深いが、彼が北米に向かう以前に執筆した著書(Principles of Polity)から継続する発想があると伺われる。のちの主著『植民地統治論』(The Administration of Colonies)とも合わせて対比していく必要がある。また、イギリス本国での文脈を考慮する必要があるので、イギリス18世紀史の研究動向を学習する作業を続けており、当時のイギリス首相大ピットの書簡集など一次資料集を含め、文献収集を行っている。本来はこれに加えて、海外でポーノルの自筆書簡を含む資料を閲覧する予定であったが、平成24年度は実現できなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
トマス・ポーノルが1760年代、70年代にイギリスで著した主著『植民地統治論』(The Administration of Colonies)と、1750年代の総督秘書、また総督時代の政府報告文書の比較検討により、彼の渡米以前に発表した著作との比較が必要なことが明確になった。研究開始当初に構想していたポーノルの先住民観については、『植民地統治論』を版ごとに比較した結果、第3版以降、ポーノルが記述を変えていないことが分かった。先住民観についてはしたがって、ポーノルの著書に加えて政府向けの公的な報告書と、彼がブリテンの主要政治家に送った私信とを参照する必要がある。そのいくつかは大ピットなどの書簡集に収録されていることも把握した。 しかし、この先の作業は進めることができていない。勤務先での繁忙な業務に加えて、複数の執筆作業が同時期に重なったことが原因である。通史の教科書(共編著)2種類を執筆する作業を引き受けた後に、本研究に助成を得られることが判明した。また、以前に手掛けた別テーマの研究について刊行助成を得られることになり、単著として刊行する作業が重なった。複数の執筆活動に忙殺される中、海外での調査を含め、本研究の活動を犠牲にせざるをえなかった。ただし上記の教科書のうち1冊には、本研究を行うなかで得た知見を組み入れている。
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今後の研究の推進方策 |
ポーノルの1750年代、60年代の政府あて、またブリテンの主要政治家宛ての書簡と、1750年代から70年代にかけての著作を一貫して比較対照する。本研究は基本的にはポーノルの著作や報告書の分析を中心とするが、彼が実際に統治に携わって得た経験に配慮する観点から、マサチューセッツ植民地総督時代(1757~60年)の彼の活動と帝国機構の理解について、アメリカで一次資料の収集を行いたい。加えて先住民観についても、他の先住民観察者の文章、また1750年代の北米滞在時代の先住民観察の文章との比較を継続し、論点の抽出を試みる予定である。 また第二の検討事項として、英国下院議員としてのポーノルの発言がある。ポーノルが『植民地統治論』を執筆と加筆を繰り返した期間(1765年~1777年)は一部、彼が英国下院の議員であった時期(1767年~1780年)と重なる。ポーノルは議会では植民地側に同情的な発言をしたことが知られているので、彼の発言をできるかぎり原典に近い形で入手し、議会での発言と著作の議論の重なり方も検討したい。当然ながら、18世紀の英国で議会の議員になるためには、政界の有力者からの後援が不可欠であった。ポーノルの本国における人脈についても、18世紀ブリテン政治史の文献を参照して理解を深めていく。 「現在までの達成度」欄に記した別テーマの単著は6月には刊行されるため、また共著の教科書についてもすでに入稿作業が始まっているか、近く始まる予定であるため、本年は、本基盤研究に研究時間を多く充当することが可能になる。また、本研究での作業を生かした共著の教科書は、1冊は2013年度末に刊行されることが確実であり、本プロロジェトの成果の一つになる。もう1冊も2013年度中に刊行されると期待している。
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次年度の研究費の使用計画 |
最終年度にあたるため、本年度は夏に、できれば2回の海外資料調査を行いたい。2011年度に一度訪問し、資料を見尽くしていないハンティントン図書館(アメリカ、カリフォルニア州)を再訪する予定である。スケジュールが許せば、ボストンのボストン公共図書館のコレクションも閲覧したい。また国内の研究会などへの参加も積極的に行い、平成24年度に執行できなかった分を含め、旅費を計画的に執行していく。 そのほか、収集したデータをより安全・適切に保存し、好適な執筆環境を確保するため、本年度前半に執筆用コンピューターとプリンターを買い替える予定である。研究文献と史料集については、過去2年間に入手した分を補完する内容のものを、選択的に購入していく予定である。
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