本研究は1750年代にニューヨーク総督植民地の秘書として北米に渡ったトマス・ポーノルの北米視察および1750年代後半のマサチューセッツ州総督としてのキャリアに着目し、それが彼の主著『植民地統治論』にどう反映したか検討することを課題とした。その際、近年のイギリス帝国氏研究で注目を集めている18世紀中ごろの帝国再編とそこにおける先住民の位置づけを中心に検討した。先住民を、アメリカ合衆国により土地を追われた被害者と定義するアメリカ史の先住民理解とは、異なる先住民像を見出しうるためである。 まずポーノルの主著である『植民地統治論』(全5版、初版1764年。第6版があるとされるが実は第5版と同一)を入手し、先住民に関する部分を検討した。またこれと内容が重なると思われる、1750年代、60年代のポーノルの意見具申書を複数調査した。具申書の一部は北米植民地でパンフレットとして刊行されている。他に具申書がイギリスの旧パブリック・レコード・オフィス刊行コレクションの中にある。またポーノルの1750年代の重要な意見具申を所蔵するハンティントン図書館(アメリカ合衆国)で調査を行った。 残念ながら、ポーノルは先住民に関する章を『植民地統治論』の第2版で書いた後、この章を改定しなかったことがわかった。ゆえに結論として、彼の植民地統治に関する発想を論じる際には先住民ではなく、貿易や帝国の機構編成に関する部分に議論を絞らざるを得ない。なお、申請時に予定していた海外調査のうち、マサチューセッツ州ボストンとイギリス・ロンドンでの調査は、勤務先での業務が大幅に増えて不可能となった。しかし本研究を行う中で得た知見は、同時に進めていた放送大学テキスト『南北アメリカの歴史』(網野徹哉・橋川健竜編著、2014年3月刊行)の執筆、特に植民地時代を先住民を重視して記述した同書第6章と、テレビ放送授業の収録の際に生かした。
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