研究課題
(1)今年度も、前年度同様、古代ギリシア人の社会で暴力がどのように均等に分けもたれていたのか、とくに超越的な国家権力を借りずに、市民たちが実力行使を含めた自助手段によってどのように紛争解決に当たっていたのかを明らかにすべく、その史料的証拠の全体的把握に努めた。(2)今回あらたに明らかになったのは、典型的にはアテナイで民主政の前史に当たるアルカイック期(前八世紀から六世紀まで)の、アテナイ市民団の内紛の諸相であった。ポリスの内紛すなわちスタシス(stasis)は、超越的な権力の押さえが存在しないポリス型社会において、ともすれば市民団が分解してゆくモーメントの潜在的強さを示している。他のポリスと違って広大な領域と多くの人口を抱えるアテナイにおいて、スタシスによる市民団の分裂をさけ、いかにポリスの統合を維持してゆくかという課題は、貴族政期以来担わされてきた宿命であった。(3)その課題を実現するため、アテナイ人は神話や伝承を用いて統合のイデオロギーをさまざまに作り上げた。市民間の暴力は、「武器を執っての党争」というベクトルを形成するときには、もっともポリスの統合にとって破壊的であり、その方向に暴力が流れることを阻止することが、アテナイ民主政にとっての至上課題であった。(4)前404/3年の「三〇人政権」による恐怖支配は、アテナイの歴史上、例外的に暴力が国家権力によって独占された時代の一つであったが、これによってポリスは統合されるどころか、深い傷を負うことになり、結局アテナイ市民は権力集中型のエリート少数支配の失敗を思い知らされる。その結果、民主政が回復した前403年に彼らが到達した一つの結論は、暴力支配が残した悪しき過去を「思い出さざること」(メー・ムネーシカケイン)という知恵であった。
2: おおむね順調に進展している
ギリシア古典史料、とくに伝アリストテレス『アテナイ人の国制』の解読および註釈作業については、ほぼ当初の予定通り順調に進み、現在第六四章の註釈を完成するに至っている。それに当たっては、内外の最新文献を収集したり、国内研究者と研究打ち合わせをしたことが効果的であった。ただし、現在ギリシャ国内の政治情勢がまだ不安定であるため、当初予定していたアテネ碑文博物館での資料調査は見合わせざるを得なかった。
これまで同様、伝アリストテレス『アテナイ人の国制』の解読および註釈作業を中心に、アテナイ史の中での暴力と紛争解決の分析に当たる。さらに関連する碑文史料にも分析を加え、民会決議や法の形で、暴力によらぬ合意形成がどのように図られたのか探究したい。またギリシャやイギリスなどでの資料収集も、現地情勢の安定を見ながら試みたい。
前年度同様、物品費(図書費・コンピュータ購入など)支出が中心となる。また国外・国内旅費にも相応の額を支出予定である。
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公研
巻: 594 ページ: 16-17
I. Worthington (ed.), Brill’s New Jacoby, Brill, Leiden
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巻: 582 ページ: 16-17
巻: 588 ページ: 18-19