本研究は、プロソポグラフィーの研究手法を用いて、近世フランスの宮廷役人の諸様相、集団的特質を明らかにすることを目的としている。宮廷が近世社会の模範的中央(ギアーツ)として大きな影響を周囲にもたらしたことがあらためて注目されているが、この宮廷を構成する役人たちについては、十分に解明されていない。 実際に宮廷に暮らす役人たちといっても、大膳部の筆頭たるフランス大侍従や王室部の長たるフランス侍従長といったトップクラスの高官は、名だたる大貴族の手中に滞留しており、経歴分析も比較的容易にできるのだが、一方で下級官職になるとポスト数は多くなるが実際に誰が勤務しているのかすらわからなくなるのが現状である。本年度は研究最終年度して、収集できうる限りの宮廷役人のデータを集めると同時に、現地での史料調査を踏まえ、さらには近年刊行されたダ・ヴィーニャやニュートンらの研究文献のデータにも依拠しつつ、分析を進めた。 その結果、フランス宮廷の役人たちの特質がある程度浮かび上がってきた。すなわち、宮廷役人のうち、重要とは言い難く軽輩である官職については、広く官職売買の対象となっており、野心ある人びとにとっては金銭で購えるなら十分に入手可能なポストであったようである。一方、国王の身辺近くに仕える重要ポストについては、国王の意向に左右され、誰もが就けるというものではなかったし、実際一部は代々特定家門によって占有されるのが常であった。そういう意味で、国王宮廷役人の世界も大きく二つに分かれており、上層部の一握りの官職については官職売買制度下にありながら国王による十全な統御が可能であったことが明白となった。
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