研究課題/領域番号 |
23520899
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研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
渡辺 和行 奈良女子大学, 人文科学系, 教授 (10167108)
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キーワード | フランス人民戦線 / 文化革命 / 余暇の組織化 |
研究概要 |
フランス人民戦線の余暇の組織化について、引き続き研究を推進した。平成25年3月時点で、400字詰め原稿用紙換算で192枚の成果になっている。平成24年3月時点では、原稿用紙140枚分の分量であったので、52枚分書き足したことになる。 1.ヴァカンスの誕生、2.スポーツ、3.旅行、4.文化・芸術の4節構成で研究を進めているが、本年度は特に旅行の分野に注力した。そのために立教大学・中央大学・東京大学社会情報資料センター所蔵のマイクロフィルムを閲覧して史料を収集した。その結果、労働総同盟が旅行の分野で果たした役割(観光案内所の設立やバカンス積立制度の導入その他)、安価な旅を保証するユースホステル網の構築、臨海学校や林間学校の組織化とその指導者養成などの実態が解明できた。これらの事柄は、わが国では殆ど紹介すらされていない領域であるので、本研究は意味があると考えている。 旅行の分野と同時に、狭義の文化、とくに図書館活動や演劇・映画・壁画芸術などにも目配りして研究を進めた。文化の民主化と民衆化を掲げて、「壁の打破」を目指した人民戦線は、様々な工夫を凝らした政策を展開した。たとえば、読者が図書館に通うという発想を転換させて、本が読者に会いに行くという構想を制度化して、巡回図書館バスを走らせたり、ロマン・ロランの「7月14日」の上演の際には、舞台と客席との「壁」が打ち破られて一体感が生まれたり、また、映画「ラ・マルセイエーズ」(ジャン・ルノワール監督)制作にいたるプロセスには、人民戦線らしさが如実に表れていることが解明できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の独自性は、従来の反ファシズム・反恐慌に力点が置かれたフランス人民戦線史研究ではなくて、文化革命としてのフランス人民戦線、すなわち、「余暇の組織化」という視点を導入することで、ワークライフバランスが求められる現代社会にとっても有用な教訓を引き出すことができるというものであった。そのために、政策立案者の理念や意図の解明と、スポーツ・旅行・文化の3分野における具体的な政策を探ってきた。 ①スポーツの分野では、冬のスポーツと空のスポーツについて検討を進めることができた。スキーは当時まだ富裕層のスポーツであったが、雪山の魅力を民衆にも広げる努力が行われたこと、また、「民衆飛行」熱が軍事的な動機を伴いながら広まった様が解明できた。②旅行の分野では、ユースホステル運動を担ったセシル・グリュンボーム=バランの活躍が重要であることを明らかにした。旅を通して世代と階級の溝が露わになりつつも、フランス人がナショナル・アイデンティティを強めたことも確認できた。③文化の分野では、舞台演劇のみならず、ラジオによる舞台中継やラジオドラマの登場によって、より広範な層にまで演劇の醍醐味を味わわせる努力がなされたことや、映画「ラ・マルセイエーズ」の制作にまつわる政府や労働総同盟の協力も明らかになった。 政策決定者の意図はかなり解明できたし、余暇を享受した労働者の反応もかなり分かってきたが、まだ不明な点もあるので来年度の課題としたい。現時点での進捗状況は、400字詰め原稿用紙で192枚の論文になっている。
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今後の研究の推進方策 |
申請時の研究方法では、スポーツ・旅行・文化の3分野の政策をそれぞれ1年ごとに解明していくことにしていたが、3分野を同時進行させた方が効率がよいことが判明したので、24年度の研究もそうした方向で進めてきた。これまでの2年間で予定していた研究の達成率は90%近くになっており、最終年度の後半には出版にこぎ着けることも可能な状態になっている。 これまでの研究では、人民戦線政府の3つの領域における文化革命の諸相について、政府の余暇政策という上からのベクトルを中心に検討してきたが、スポーツや旅行に興じた人々の心性や政策に対する要求・支持といった下からのベクトルについては断片的にしか掬い上げることができていないので、最終年度では新聞の投書欄や雑誌の特集、回想録や日記の類いなども再度緻密に検証していきたい。 さらに、この2年間は労働者階級の反応を中心に検討してきたが、文化革命の領域でも、世代のギャップと同時に階級のギャップも存在していたので、中産階級の視点にも留意して研究を進めたい。中産階級の政党である急進党の大会で余暇の問題が論じられており、また、急進党系の新聞『マリアンヌ』を立教大学が所蔵しているので、この論点は解明可能である。 最終年度には、これまでの研究の加筆修正が中心になるが、秋までにはやり終えて、出版を目指して原稿の推敲に努め、反ファシズム・反恐慌・文化革命としてのフランス人民戦線の全体史を世に問いたい。現在、6章構成で1000枚ほどの分量の人民戦線史ができあがっている。本科研テーマは第6章に当たっている。すでに出版社(人文書院)とも出版に向けた話し合いを始めており、1年先の出版公表がかなりの現実味を帯びてきている。拙著によって、1974年以来日本人の手になる人民戦線史(平瀬哲也『フランス人民戦線』近藤出版社)が、出版されていないという事態に終止符が打たれるだろう。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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