フランス人民戦線政府が実施した余暇の組織化について、初年度のスポーツ、次年度の旅行に引き続いて最終年度は文化・芸術分野を研究の対象とした。「壁の打破」を掲げていた人民戦線政府は、それまで上流階級が独占してきた芸術・文化を民衆の身近なものにしようと奮闘した。その人民戦線政府の文化政策を、図書館運動、移動図書館の制度化、民衆劇場や巡回劇団などの演劇、とくに1936年7月14日に上演されたロマン・ロランの「7月14日」への反響、またジャン・ルノワール監督の映画「ラ・マルセイーズ」に代表される映像文化運動、画家のフェルナン・レジェが主導した「壁画芸術」などの美術運動、さらには万国博覧会における文化展示などを分析した。 科研費交付期間の3年間で、フランス人民戦線の余暇政策として、スポーツ・旅行・文化の3領域での具体的な政策が解明できた。こうして、1936年に成立した人民戦線政府の余暇政策は、フランス人のライフスタイルを変える余暇文明の出発点を画したことが明らかになった。それは、第二次世界大戦後に本格的に到来する余暇社会の原点となり、フランス人民戦線はフランス人にとって、20世紀フランス史の「記憶の場」となった。本研究によって、「文化革命」としての人民戦線が明らかになった。かくして、余暇の組織化がメインの「文化革命」の章を含む著書、『フランス人民戦線―反ファシズム・反恐慌・文化革命―』(人文書院)を上梓することができた。これが、科学研究費の交付を受けた3年間の成果である。
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