研究概要 |
最終年度である2013年度は、8~9月にフランス中南部各地の都市を訪れて、中世都市家屋の現状について調査した。そして、このための日本での予備調査と現地調査後のデータと史料の分析が本年度の主たる作業となった。現地調査では、昨年度に調べた Saint-Antonin-Noble-Val とCordes-sur-Ciel を再訪して、中世家屋の現状をビデオに収めたほか、昨年度までに調査していなかったCollonges-la-Rouge, Martel,Beaulieu-sur-Dordogne, lisle-sur-Tarn, Capestang, Uzes などの都市で、新しく中世町家の現存状況とその形態的な類似を確認した。 また、Carcassonne 北方の Cabardes 地方に残る中世城砦とその周辺の中世農村遺跡の様子を調査出来たことは、incastellamento (城砦集落形成)を実例に即して理解するうえで非常に有益だった。同時に、プロヴァンス地方に残るローマ時代の道路と橋の様子を見ることも出来たが、これは、古代から中世への建築技術の継承の問題を考えるうえで、重要な参考材料となった。 あわせて、2014年3月にノルマンディー地方を訪れる機会があったが、その際には、特に首邑ルーアンにおいて、木造骨組み(ハーフティンバー)の都市建物を多数見学することが出来、南仏の石造中世都市家屋とは異なる北仏の中世町家の形状の特徴を確認した。ルーアンの場合、1階部分の多くは石造だが、2階以上は木造であるため、石造アーチは用いられず、1階開口部の上辺を支える木製の梁も含めて、水平の木材が開口部の上辺を支えることになる。最上階まで石造であるフランス中南部の中世町家では、開口部はロマネスク式やゴシック式の石造アーチで支えられる。この点が、両者の対比の本質を作り出しているように思われた。
|