採択初年度H23は、夏季・春季に合宿形式の研究会を実施した。東京の立教大学において、科研費採択課題『議会制統治モデル』についての認識を、代表者以下10名の関係者で共有することとした。この成果をもとに、参加者の研究課題をそれぞれ決定し、イギリス近世・近代議会制統治を検証するための実証研究に着手した。研究関係者の中からイギリスにおける史料収集にかかる外国旅費を補助金から一部補助し、H24年度に2回の合宿形式研究会を実施、各自が個別テーマの進捗を報告した。 これらの成果を、論文集の形式で公刊することとし、H26年度内に立教大学出版会から助成金を得て出版することを目標に、H25年度には報告会実施、論文原稿を関係者全員が研究代表者に提出、編集作業に入った。 同書を構成する11の章は、「1下院の議席配分と地域代表」、「2商人等の非地主議員と議会」、「3地域利害に関する下院以外のチャンネル」という3つの問題群に分けて、3部構成で配置されている。収録論文11章はそれぞれがイギリス近世史、近代史に関わる詳細で実証的な個別研究論文で、全体として『議会制統治モデルの幻想』のタイトル通り、イギリス近世・近代史における議会制統治の順調な発展という常識化した図式の危うさを明らかにする。本研究課題の成果として本書が志すのは、順調な議会制統治の発展というステレオタイプ化したイギリス史理解の図式を、精緻な実証研究の積み重ねによって批判的に再検討することであり、本事業の研究目的は十分達成し得たと考えている。ただし、批判的に議会制統治モデルを再検討した結果、具体的、実証的に問題点が明らかになったものの、従来のものに替わるようなイギリス史理解を提示するという課題が残っている。この課題は、本書を刊行して、従来のイギリス議会制統治理解の問題点をより多くの研究者と共有した後に、新たに取り組んでいかなければならない。
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