研究課題/領域番号 |
23520913
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研究機関 | 鎌倉女子大学 |
研究代表者 |
長谷川 岳男 鎌倉女子大学, 教育学部, 教授 (20308331)
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キーワード | 西方ギリシア人 / 植民 / ネットワーク / マグナグラエキア / シチリア / フォカイア / アイデンティティ / マッサリア |
研究概要 |
本年度は予定していた海外調査が勤務校の仕事の関係で実施できなかった。しかし次年度以降の調査のための調査を大幅に進めることはできた。具体的には本邦においてほとんど未着手である西地中海に展開したギリシア人たちの動向を前8世紀からローマ帝政期に至る史料の分析、考古学的調査の成果などを摂取することで理解を深めることができたため、どこで何に注意して調査する必要があるのか、詳細なところで詰めることができたからである。 まず本邦ではまったく注目されていないローヌ河口に位置するマッサリア(現在のマルセイユ)を中心とするフランス南部、スペインのギリシア植民市に関して、現地の人々との関係を示す碑文・文献史料の解読、あるいは発掘により明らかになった市域部の遺構(特にエンポリオン(現在のアンプリアス)やマッサリア)に関する発掘報告を入手して、当時の状況を把握した。一方でM.H.Hansenらによるポリスの目録をもとにイタリア南部やシチリアのギリシア人たちの動向も入手した碑文史料を中心に分析した。これらによって得た知見の確認と、彼らの生活の視点からこれらの地域を取り巻く環境、景観の調査を次年度に行う予定にしている。 そしてここで分析を進めた西地中海のギリシア人たちのミクロな世界が当時の地中海世界において、どのような位置づけにあり、この時代の理解、あるいは現在の理解にいかに寄与しうるのかを、21世紀に入って多くの関心を集めているHorden, P. and Purcell, N.(2000), The Corrupting Sea. A Study of Mediterranean History, Oxfordを参考に考察し、大学の講義でフィードバックして、この研究テーマの社会的意義を模索した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
申請時には24年度にはイタリア南部、シチリアの調査を実施する予定であったが、「研究実績の概要」で述べたように、勤務校の都合で実施できず、現地の状況の把握とイタリア語文献の収集・分析が遅れているため、上記の達成度の評価となった。ただし、実地調査ができなかった分、研究文献や史資料分析は予定以上に進めることができた。 また本年度末に予定されていたアテネでの日本とヨーロッパの研究者との研究コロキアムが平成26年度4月に延期になったため、そこで中間成果を問うことが適わなかったことも上記の評価とした理由である。
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今後の研究の推進方策 |
これまで述べてきたように、海外での実地調査を実施していないので、平成25年度と26年度にはイタリア語圏、フランス語・スペイン語圏で各一回ずつの調査、さらにロンドンの研究所での文献調査と研究者との情報交換を現地調査と併せて行い、加えて平成26年度の研究コロキアムでアテネに赴いた際には、ギリシア本土でのギリシア人コミュニティの実態、そして特に植民にとって後の時代まで重要であったデルフォイのアポロン神殿の実地調査を行う予定である。そしてこれまで分析を進めてきた史資料から導き出された仮説を実地調査と研究所での文献補完の作業、研究者との情報交換などにより実証していくことが今後の中心的課題となる。これらの成果を平成28年度の西洋史学会、史学会、あるいは西洋古典学会で報告して、その意義を問うことにしている。 加えてこれらの成果の社会的還元性の追求も講義などの場でのフィードバックで引き続き進めて、学界での貢献のみならず、いかにして一般社会に成果を訴えることが可能かも考えていきたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
文献やパソコンやビデオ撮影機などの機器にいくぶんかの予算を使用するが、大部分は夏のロンドンの研究所での文献調査と南仏での実地調査、そして春にイタリア語圏での調査に充てる予定である。
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