研究課題/領域番号 |
23520913
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研究機関 | 鎌倉女子大学 |
研究代表者 |
長谷川 岳男 鎌倉女子大学, 教育学部, 教授 (20308331)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2016-03-31
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キーワード | 古代ギリシア / マグナグラエキア / 西方ギリシア人 / 植民 / アイデンティティ / ポリス / 異文化接触 / ローマ以前のイタリア |
研究実績の概要 |
本年度は、本来は4月末にアテネで開催されたヨーロッパの研究者とのコロキアムで、この三年間の研究成果を報告して、助言を得る予定であったが、大学の海外出張規程に対応できる準備が開催側でできなかったため、報告を断念した。これはスパルタのタラス植民に関する伝承を、近年の当地における考古学的成果を摂取し、またスパルタをめぐる「放縦な女性」という言説を考慮して新たな解釈を示すものであり、この研究は平成28年度の全国学会で報告するとともに、雑誌論文として投稿する予定である。 一方で昨年度の南フランスでの現地調査に続いて、イタリア南部(マグナ・グラエキア)で現地調査を主たる活動とした。調査を実施した8月後半以前は、調査で訪れる遺跡とその歴史的経緯を丹念に史料と研究文献から調べた。その予備知識をもとにナポリ、イスキア島(ピテクサイ遺跡)、パエストゥム、ヴェリア、ラオス、レッジョ、メッシナ、ロクリ、カウロニア、クロトン、シュバリス、ヘラクレイア、メタポント、ターラントの遺跡と博物館を訪問し、現地の状況調査、および関連文献の購入を行った。なお現地調査では美術史などに造詣の深い宮﨑亮氏に同行を依頼し、有益な助言を得ることができた。帰国後は、これまでの総仕上げとして、収集した研究文献を中心に本課題に関する成果をまとめる作業に従事した。 また成果の発信として、『かいほう』(古代世界研究会ニューズレター)No.123に「マグナ・グラエキア調査旅行」と題する一文を寄稿した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
結論から言えば、本来、4月のアテネの研究会で成果の一部を報告し、その結論に対する欧米の専門研究者の反応により研究方針を再検討して、そのことをもとにイタリア南部での調査を行い、最終的な結論を出す予定であったが、アテネでの報告が叶わなかったため、上の達成度の評価となっている。それ以外の点についてはこれまでロンドンの古典学研究所での文献調査、大英博物館でのマグナ・グラエキア出土の遺物の実見、さらに南仏、南イタリア双方の現地調査を実施した結果、基礎文献の収集及び分析、さらに本課題で重視している現地のトポロジー理解及びに、近年その進展が著しい考古学的成果の摂取は順調に進められていると思われる。 これらの分析により、特に従来の我が国では研究レベルにおいても、ギリシア人植民、西方ギリシア人の認識には大きな問題があることが明らかになった。そして今後、いかなる調査や作業が必要かの見通しも立ったので、それらの作業を遂行した結果、解明される結論の妥当性を問うことが残されることとなっている。
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今後の研究の推進方策 |
上の項目で述べたように、欧米の専門研究者と議論することによる本研究の妥当性を問うという課題が残されたため、本課題の交付期間を1年延長を申請して認可された。次年度はこれまでの現地調査の成果を整理し、また入手した研究文献、史料を分析し本課題の結論(西方ギリシア人のアイデンティティを現地民との接触の影響を考慮して解明する)を導くための作業を行い、大学業務にいくぶん余裕がある来年初めに渡英して、この課題の権威であるK.Lomas教授に会って議論することにより、最終的な修正を加え研究を完成させる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度初頭のアテネでの欧米の専門研究者との研究会に参加できず、その分の予算を使用できなかったため。さらにその報告用に英文原稿のネイティブチェックの謝礼用の予算も使用されなかった。そのため研究計画全体に遅れが生じ、欧米の専門研究者との議論して本研究の妥当性をはかることができなかっため、交付期間を1年延長して、研究会ではないがイギリスの研究者(K.Lomas)に会って議論することによりその計画を実施することにした。
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次年度使用額の使用計画 |
上記のように、その予算は全額、来春の渡英費用と現地研究者との議論のための草稿のネイティブチェックの謝礼に充てる予定である。
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