追悼説教パンフレットにおいて追悼された故人の社会階層は主に上層であったが、後半の経歴部分からその立場が必ずしも安定したものではなかったことが明らかになった。だからこそ、当該史料のなかで描かれる故人は、社会的功績や出自をアピールするだけでなく、「神に喜ばれる徳」と「世俗の名誉」との双方を兼ね備えた身近なヒーローとして、近隣社会の人びとの記憶に留まる必要に迫られた。この点で、追悼説教パンフレットは、他者の修養のため、遺族の慰めの書として以上に、故人の「紙の記念碑」として一世を風靡したのである。こうした史料の性質については、宗派による差異は認められなかった。
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