研究課題/領域番号 |
23520916
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研究機関 | 甲南大学 |
研究代表者 |
田野 大輔 甲南大学, 文学部, 教授 (60330122)
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キーワード | ナチズム / セクシュアリティ / 性政治 / 歴史社会学 |
研究概要 |
本研究は、セクシュアリティの問題を軸に、ナチズムの政治の実態を歴史社会学的に考察し、とくに(ア)性道徳・性教育、(イ)売春・避妊・婚外交渉、(ウ)同性愛・ヌーディズム・ポルノグラフィーの問題において、性と権力がどう関わり、欲望の動員にどう寄与したのかを明らかにしようとするものであるが、(ア)については前年度に目標を達成していたため、本年度は(イ)と(ウ)に焦点をあてて研究を行い、(a)ドイツの文書館・図書館等での史料調査と、(b)所属研究機関での史料分析・研究調査を同時並行的に進めることによって、以下の研究成果を得ることができた。 (イ)については、ワイマル共和国の性的退廃を批判したナチズムが、売春や婚外交渉を不道徳として弾圧する一方、子孫の繁殖と民心の維持をはかるため、そうした性交渉を黙認し、一部で奨励していた事実について、政府当局内の矛盾した対応を中心に、実証的に明らかにすることができた。 (ウ)については、風紀紊乱として取り締まりの対象となったヌーディズムやポルノグラフィーが、政府当局内の路線対立や利害対立のなかで、抑圧・黙認・奨励の絡み合う複雑なコントロールの対象となった事実や、人口政策上・国家政治上の脅威として危険視された同性愛が、戦闘的な男性組織を国家の中核に据えたナチズムにとって、制御の難しい微妙な問題となった事実について、政府当局内の矛盾した対応を中心に、実証的に明らかにすることができた。 本年度は、以上の(イ)と(ウ)のほか(ア)もあわせて研究成果をまとめる作業にも取り組み、著書として出版することができた。また、これと並行して本研究と関わりの深い欧米の研究の翻訳にも取り組み、訳書として出版した。これによって本研究は一応の完成を見ることになったが、次年度はさらに派生的な問題にも取り組んで、研究のさらなる進展をはかりたいと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の3つの研究対象、すなわち(ア)性道徳・性教育、(イ)売春・避妊・婚外交渉、(ウ)同性愛・ヌーディズム・ポルノグラフィーのうち、(ア)については前年度に目標を達成していたため、本年度は(イ)と(ウ)に焦点をあてて研究を行ったが、すでに研究の蓄積があったこともあって、当初の計画以上に研究が進展し、予定よりも早く目標を達成したことから、計画を前倒しして研究成果をまとめる作業にも取り組み、著書として出版することができた。 これによって本研究は一応の完成を見ることになったことから、当初の計画を上回る進展状況といえるが、とくに(イ)と(ウ)については、当初の目標を達成したとはいえ、研究を進める過程で明らかになった新たな課題や、著書に盛り込むことのできなかった成果が残っている。そうした派生的な問題についても、本年度中にほぼ研究の道筋がついているので、次年度はさらにこの点に関する研究を進めて、著書とは別の形で研究成果を発表する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、本研究がすでに一応の完成を見たことから、本研究の3つの研究対象である(ア)性道徳・性教育、(イ)売春・避妊・婚外交渉、(ウ)同性愛・ヌーディズム・ポルノグラフィーのうち、とくに(イ)と(ウ)について、研究を進める過程で明らかになった新たな課題や、著書に盛り込むことのできなかった成果など、派生的な問題を中心に取り組み、研究のさらなる進展をはかりたい。 (イ)については、とくに売春の規制・管理の目的と実態、避妊具の販売と出産奨励策との矛盾、婚外交渉の奨励と出産奨励策との関係などを中心に、ナチズムによる欲望のコントロールのあり方に関する総体的な視座を得るため、ナチ党指導部や政府関係当局の文書の調査を行う。 (ウ)については、とくに同性愛者迫害の動機や婚外交渉奨励策との関係、ヌーディズム奨励の実態とポルノグラフィー蔓延との関係、裸体の理想化と女性イメージとの関係について、ナチ党指導部や親衛隊幹部の文書、ナチ党や親衛隊関連の雑誌の調査を行い、日本などドイツ以外の国との比較の視点も導入しながら、ナチズムによる欲望のコントロールのあり方に特有の問題について考察する。 以上のような課題に取り組むため、次年度も(a)ドイツの文書館・図書館等での史料調査と、(b)所属研究機関での史料分析・研究調査を同時並行的に進めるが、(a)についてはさらにアメリカの文書館・図書館等での史料調査も加える。また、研究成果については、著書とは別の形、とくに学術論文や学会報告での発表を予定しており、できれば海外の学術誌や学会で成果を発表したいと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は、本研究の3つの研究対象のうち、とくに(イ)と(ウ)について、研究を進める過程で明らかになった新たな課題や、著書に盛り込むことのできなかった成果など、派生的な問題を中心に取り組み、研究のさらなる進展をはかりたいと考えており、そのために必要な史料・文献を得るため、ドイツとアメリカの文書館・図書館等で1回ずつ史料調査を行う。研究費のうち、7割程度はこのために使用する。 また、次年度は研究成果について、とくに学術論文や学会報告での発表を予定しており、そのために必要な文献・備品の購入や、欧文への翻訳などにも研究費をあてる予定である。
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