本研究は、セクシュアリティの問題を軸に、ナチズムの政治の実態を歴史社会学的に考察し、とくに(ア)性道徳・性教育、(イ)売春・避妊・婚外交渉、(ウ)同性愛・ヌーディズム・ポルノグラフィーの問題において、性と権力がどう関わり、欲望の動員にどう寄与したのかを明らかにしようとするものであるが、前年度までに当初の研究目的をほぼ達成し、研究成果をまとめて著書を出版することができたため、本年度はとくに(イ)と(ウ)について、研究を進める過程で明らかになった新たな課題や、著書に盛り込むことができなかった成果など、派生的な問題に取り組み、研究のさらなる進展をはかった。 (イ)については、とくに売春の規制・管理の目的と実態、避妊具の販売と出産奨励策との矛盾、婚外交渉の奨励と出産奨励策との関係などを中心に、ナチズムによる欲望のコントロールのあり方に関する総体的な視座を得るため、ナチ党指導部や政府関係当局の文書の調査を行った。 (ウ)については、とくに同性愛者迫害の動機や婚外交渉奨励策との関係、ヌーディズム奨励の実態とポルノグラフィー蔓延との関係、裸体の理想化と女性イメージとの関係について、ナチ党指導部や親衛隊幹部の文書、ナチ党や親衛隊関連の雑誌の調査を行い、日本などドイツ以外の国との比較の視点も導入しながら、ナチズムによる欲望のコントロールのあり方に特有の問題について考察した。 本年度は、以上の(イ)と(ウ)に関する研究成果を発表するには至らなかったが、前年度にすでに著書を出版し、一応の完成を見たことから、今後は本年度の研究成果をまとめる作業に取り組むとともに、著書に対する反響を踏まえて、研究のさらなる進展をはかりたいと考えている。
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