研究課題/領域番号 |
23520918
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
岩城 克洋 東京大学, 総合文化研究科, 特任研究員 (70588227)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | ローマ時代 / 一般土器 / 別荘遺跡 |
研究概要 |
本研究の主たる目的は、土器の流通・消費動向などから地域の経済・社会動態を細かく分析することにあるが、そのためには、研究対象地域における土器資料の型式編年が十分に構築されている必要がある。研究対象として設定した地域においては、対象資料の蓄積が相当量に達しているのに対して、編年研究はほとんど行われていない。動態分析の精度は編年研究の精度と密接に関係しているので、本研究の目的を達するためには、対象地域の編年研究の精度を向上しなければならない。そのため、今年度は対象地域におけるCeramica Comune(一般土器)の編年研究と遺跡の立地環境による出土形態の差異について研究を行った。まず、対象地域内において一般土器の出土報告例の多い遺跡を抽出し、それらをローマ、ナポリなどの大都市遺跡、ルーニ、ヴルチ、オスティア、ポンペイなどの中小都市遺跡、セッテフィネストレ、コッタネッロなどの郊外別荘遺跡に分けたうえで、タルクィニア/カッツァネッロのローマ時代別荘遺跡とソンマ・ヴェスヴィアーナ/スタルツァ・デラ・レジーナのローマ時代遺跡からの豊富な出土土器資料を加えて一般土器の型式編年を構築した。また、その過程で収集した土器資料のデータをもとに、社会動態研究の段階での各種要素の横断的な統計分析に耐えうるように、実測図のデジタルトレース画像を中心としたデータベースを作成した。これらの研究成果の一部は、編年研究については『イタリア半島中部におけるCCF/pentolaの編年研究』(千葉大学文学部考古学研究室30周年記念考古学論攷I)に、立地環境と出土形態の関係性の問題については『ソンマ・ヴェスヴィアーナにおけるローマ時代遺跡調査』(遺跡学研究第8号)に発表している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要の項でも述べた通り、実測図のデジタルトレース画像をもとにした土器形式分類データベースを構築したが、このデータベースの入力資料件数は、現時点で約2000点と、当初の予定より大幅に多いものとなった。特に、従来資料数がナポリ・ポンペイ付近に集中していたのに対して、オスティア、ルーニ等、中北部の資料数を多く収集できたことで、ティレニア海沿岸地域に関しては中北部から中南部まで、まんべんなくかなり精密な動態分析を行える素地が整った。胎土分析に関しては、アウレリア街道沿いの中北部西岸地域と、アッピア街道沿いの中南部西岸地域に関して、相当量の資料を収集することができた。これらの地域は、上述のごとく土器資料の報告例が多い地域でもあり、胎土分析の成果と型式編年研究の成果を比較することで効果的な地域動態研究をすすめていくことが可能になった。また、ミラノ大学のタルクィニア/チヴィタのエトルリア・ローマ時代都市遺跡調査団と胎土分析データを相互に交換して、土器胎土における地域差と時期差の関連性について検討する資料を得た。これらによって、一般土器の生産から消費までの一連の地域動態を研究するための資料環境を整えるという、初年度の研究目的は達せられたと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、画像データベースに格納する土器資料情報のさらなる拡充をはかる。具体的には、イタリア半島の西岸から中央部に偏っている現状を改善するためのイタリア半島東岸地域での資料収集、編年構築の基軸となっているタルクィニア/カッツァネッロのローマ時代別荘遺跡出土遺物の資料化、さらに胎土分析のモデル地域として考えているローマ北方のマレンマ地方において、テベレ川沿岸からそれ以東の地域での胎土の標本資料の収集を重点的に行う。さらにタルクィニアにおいてミラノ大学タルクィニア/チヴィタのエトルリア・ローマ時代都市遺跡調査団との協力のもと得られたような、胎土の時期差を考える手がかりになる情報をテベレ川中流沿岸域においても獲得したい。そのうえで、本研究の目的である土器の生産・消費に関する地域動態について、画像データベースを活用した統計分析を開始する。まずは、胎土データの分析から、マレンマ地方の各産地における一般土器の生産規模と、その拡散の限界を把握することを目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
2012年春、夏、秋、2013年春の4回、イタリア共和国タルクィニア及びソンマ・ヴェスヴィアーナを拠点に、資料調査を行う予定であり、そのための旅費と資料収集時に使用する資材・消耗品等に全体の7割程度を使用する。その他に、ローマ考古学関連およびイタリア地質学関連の書誌購入、日本国内における実測図のデジタルトレース作業と画像データベース作成時の入力補助に対する謝金、学会発表に要する費用などにそれぞれ使用する予定である。
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