研究課題/領域番号 |
23520918
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
岩城 克洋 東京大学, 総合文化研究科, 特任研究員 (70588227)
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キーワード | ローマ時代 / 一般土器 / 別荘遺跡 |
研究概要 |
本研究の主たる目的は、土器の流通・消費動向などから地域の経済・社会動態を細かく分析することにある。前年度はその目的のための前提条件として、おもに研究対象地域における土器資料の型式編年の整備とそれらの精度の向上を目指した。本年度も型式編年の整備と精度向上のための作業を継続し、動態分析の基礎資料となるデータベースの構築をすすめた。このデータベースは、土器そのものの実測図データと各種計量データの他に、資料が出土した遺跡・遺構に関する各種データと既知の土器胎土情報をも加えたもので、さまざまな要素の横断的な分析による各種の動態分析を可能にするものである。同時に動態分析に必要ないくつかの別の研究要素にも取り組んだ。具体的には、研究対象の土器に共伴する別種の遺物、特に調理用土器との機能面における関係性が高い獣魚骨・貝類などの自然遺物資料について、基礎データを収集してデータベース化し、土器資料データベースと関連づけた。調理用土器の機能に関しては他にも、器面に残存するこげ痕のデータを収集し分析した。データ収集にあたっては、カンデッラ近郊に散在する別荘遺跡や、アスコリ・ピチェーノ近郊の山間部からアドリア海沿岸部までのトロント川流域のローマ時代遺跡などイタリア半島東部の資料に重点をおいた。また、基準資料となるタルクィニア/カッツァネッロのローマ時代別荘遺跡、ソンマ・ヴェスヴィアーナ/スタルツァ・デラ・レジーナのローマ時代遺跡からの出土土器についても、前年度に引き続きデータの積み増しを行った。 これらの研究成果の一部は、編年研究については「イタリア半島中部におけるローマ期CCF - 浅鉢系ollaの研究」(『古代』131号)に、土器機能の特質については「ローマ時代調理器具としてのCCF-tegameの機能と用途」(『型式論の実践的研究I-地域編年研究の広域展開を目指して-』)に発表している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実測図のデジタルトレース画像をもとにした土器型式分類データベースは、前年度に引き続き資料データ数の増加を図り、現時点で約2800点となった。特に今年度は、研究実績の概要の項でも述べた通り、プーリア州カンデッラ近郊に散在する別荘遺跡、マルケ州アスコリ・ピチェーノ近郊の山間部からアドリア海沿岸部までのトロント川流域のローマ時代遺跡などイタリア半島東部の資料を重点的に収集した結果、西部のティレニア海沿岸地域から中央部山間地域を経て東部のアドリア海沿岸地域に至るまで、網羅的なデータベースを構築することができた。これによって、昨年度までのティレニア海沿岸地域のアウレリア街道・アッピア街道沿線における動態分析とは別に、胎土・土器供給地としての中央山間部から、消費地としての東西それぞれの沿岸地域にいたる流通・消費動態の分析が可能になった。また、基準資料のひとつの核と考えているタルクィニア/カッツァネッロのローマ時代別荘遺跡出土資料に関連して、ローマ以前のエトルリア時代にタルクィニアの外港都市であったグラヴィスカの市街地遺跡を発掘調査しているペルージャ大学の調査隊、中世のタルクィニア市街地遺構を発掘調査しているタルクィニア国立考古学博物館とタルクィニア市の共同調査チームと情報を交換して、土器生産・消費に関わる各種動態が、時系列上でどのように変遷しているかの分析を開始した。このように、一般土器の生産から消費までの一連の地域動態を研究するために、資料環境を整えるとともに、さまざまな視点からの分析を試みるという今年度の研究目的は達せられたと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は本研究課題の最終年度にあたり、これまでに構築してきた土器資料データベースを用いて、一般土器の生産から消費までの一連の地域動態研究という目的に沿った多面的な統計分析を試みる。具体的には、胎土データを用いて、中央山間部と東西沿岸部における土器の生産・供給に関する動態分析、土器の型式データを用いて、街道沿いに展開する土器の流通に関する動態分析、こげなどの使用痕データや共伴する自然遺物データなどを用いて、調理用土器の機能についての細かな分析とその成果に基づく機種毎の分布様態についての分析などを行い、論文投稿や学会発表などによって成果を報告する。 その他に、ペルージャ大学のグラヴィスカ遺跡調査団とは、グラヴィスカ遺跡におけるローマ時代遺構・遺物に関連して研究協力を進めていく。また、編年構築の基軸と考えているタルクィニア/カッツァネッロのローマ時代別荘遺跡、ソンマ・ヴェスヴィアーナ/スタルツァ・デラ・レジーナのローマ時代遺跡からの出土土器については、今年度も引き続きデータベースへの資料の積み増しを行う。 また、構築した土器資料データベースの構造とそれを用いた動態分析の手法の有用性についても、付随的な成果として何らかのかたちで報告することを目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
2013年夏、秋の2回、イタリア共和国タルクィニア及びソンマ・ヴェスヴィアーナを拠点に、資料調査を行う予定であり、そのための旅費と資料収集時に使用する資材・消耗品等に全体の5割程度を使用する。また、ペルージャ大学のグラヴィスカ遺跡調査団との研究協力に関する打ち合わせ、さらにはそれに伴う学会発表及び論文投稿等に2割程度を使用し、残りは、ローマ考古学関連の書誌購入、日本国内における実測図のデジタルトレース作業と画像データベース作成時の入力補助に対する謝金などにそれぞれ使用する予定である。
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