本研究の主たる目的は、土器の流通・消費動向などから地域の経済・社会動態を細かく分析することにある。前年度まではその目的のための前提条件として、おもに研究対象地域における土器資料の型式編年の整備とそれらの精度の向上を目指した。本年度は、型式編年の整備と精度向上のための作業をすすめ、トスカーナ、ラツィオ、カンパーニャの3州からの資料を中心に動態分析の基礎資料となるデータベースを構築した。このデータベースは、土器の実測図データと各種計量データの他に、資料が出土した遺跡・遺構に関する各種データと既知の胎土情報をも加えたもので、さまざまな要素の横断的な分析による各種の動態分析を可能にするものである。このデータベースを用いて、都市とその近郊間の経済活動程度の小規模の経済圏、あるいは一つの河川流域程度の範囲の中規模の経済圏における経済・社会動態の分析、及び単体の遺跡内における異なる機能空間における土器の移動・使用様態の分析を行った。その結果、調理用土器類の実際の細かな機能とそれぞれの器形毎の流通・消費規模、器形毎の遺跡内各機能空間における分布傾向などの詳細な動態が明らかになった。他には、動物遺存体データとの比較統計分析によって、小規模な地域毎の調理用土器の特徴と食料品産品との関係性の一部も明らかになっている。また、基準資料となるタルクィニア/カッツァネッロのローマ時代別荘遺跡、ソンマ・ヴェスヴィアーナ/スタルツァ・デラ・レジーナのローマ時代遺跡からの出土土器についても、前年度に引き続きデータの積み増しを行った。これらの研究成果の一部は、編年研究については「イタリア半島中部におけるローマ期CCF - 壺系ollaの研究」(『古代』132号)に、土器機能の特質については「ローマ時代調理器具としてのCCF-coperchioの機能と用途」(『型式論の実践的研究II』)に発表している。
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