研究課題/領域番号 |
23520920
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
冨井 眞 京都大学, 文化財総合研究センター, 助教 (00293845)
|
キーワード | 考古学 / 縄文土器 / 破壊 / 破片 / 割れ線 / 土器片敷遺構 / 黒化 / 安置 |
研究概要 |
平成25年度は、資料収集は、石川県下の土器片敷遺構などから出土した主として遺存率の高い土器の撮影・観察を行い、データ整理もほぼ終えた。そのうち、出土記録との対照が可能な資料を見てみると、加賀地方の遺跡の数例では、器高や口径が20㎝を超える法量の粗製土器において、破片の安置時には、口径では1/8~1/4程度の残存率でありながら割れ線の幹線が胴下半ないし底部付近にまで至るような大型で比較的縦長の形状を保持していた破片が、複数接合している例がある。同じく平成25年度に試みた同程度の法量の現代植木鉢の破壊実験では、中空状態での単純な側面打撃ではこうした形状を導きにくいので、土器の破片化に際しては、平成24年度の実験結果も考慮すれば、側面を面的に均質に加圧するなどの配慮の存在を想定すべきだろう。 加賀地方と同じ土器型式圏の富山県について、平成26年度の資料調査に向けて土器片敷遺構の集成を進めたが、発掘報告書の遺構写真からの推測では、そこでも同様の破片化がうかがえる事例も存在する。こうした大型で縦長の破片形状となる例は、同時期でありながら型式圏を異にする岐阜県飛騨地方にも存在することを平成24年度に確認している。同一の時期に土器の製作面での類型とは異なったかたちで破壊の類型が展開していることをうかがわせる。 なお、展開写真撮影と出土状況との照合作業を重ねていく中で、土器片敷遺構以外から出土した土器のうち特に横位出土のものにおいて、土器の黒化部が天を向かないようにして出土している事例が比較的高い頻度で確認できた。破壊とは異なるが、土器の利用の最終局面における当時の人間の意図をうかがい知る上で、副産物的ながらも興味深いデータを得たと言える。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
土器片敷遺構から出土した土器の資料調査については、石川県で検出されたものに関しては、類例や実見できる出土記録の少なさもあって、予定していた資料調査をほぼ終えることができ、土器の写真撮影および観察と出土状況との対照もおおかた終了した。また、富山県で検出されたものに関しては、実見には至らなかったもののデータ収集すべき遺跡・遺構のリストアップは本年度内に終えており、平成26年度の春期から資料調査に着手するべく資料収蔵機関との日程調整に入っている。以上、データ収集に関しては若干の遅れがあるが、ペース回復の見通しは立っている。 撮影写真の画像処理などデータの体系的整理は、作業補助の学生を恒常的に確保できたので、平成24年度に収集した岐阜県のデータも平成25年度に収集した石川県のデータも、順調に進んだ。また、土器の破壊パターンの復元のための現代植木鉢の破壊実験は、条件を変えながら進めているが、小破片化する破壊については、本研究課題の期間中に類型化を試行するには変異が大きすぎるようである。しかし、大型縦長破片が獲得される破壊行為に関しては、消去法的にパターンを絞りつつあり、順調に進んでいる。 岐阜県・石川県、そして福井県西部の事例の体系的整理が進み、土器型式を超えて割れの特徴を共有する事例を見出しているので、富山県の資料調査を残しているものの、交付申請書の「研究の目的」に掲げた具体目的の第5段階に入っている部分もある。 以上を踏まえて総合的に振り返れば、おおむね順調に進展していると認識している。
|
今後の研究の推進方策 |
平成26年度には、夏期のうちには富山県の資料調査を終えるよう、春期から資料調査に赴く。そして、秋期には、大型縦長破片を獲得できる土器破壊行為がどういった共有状態を示すか分布状況を整理し、土器型式圏との関わりについて検討する。さらには、その破壊行為の共有状況は、点的に分布する傾向を予測させることから、比較対照のための信越地方や東北地方の参考事例については、スポット的に資料調査を実施する。また、資料調査で得たデータの整理のための作業補助の学生を早期に確保できるよう努める。 破壊実験については、小破片化させる破壊行為の推定よりも、大型縦長破片を獲得する破壊行為の絞り込みに比重を置き、費用対効果に見合うよう効率的に進める。 なお、富山県の土器片敷遺構については、発掘調査が古いこともあって出土資料の確認作業から始めねばならない事例が少なくないことが資料収蔵機関との情報交換で判明し、資料調査に赴く頻度が増すことが想定されるが、破壊実験の効率化と、必要に応じて東日本の類例確認作業の規模縮小を伴えば、調査旅費は確保できる。
|
次年度の研究費の使用計画 |
「次年度使用額」が生じたのは、部局業務である平成25年度7月からの発掘調査において、新規採用教員の教育指導補助をする立場になったこと、及び調査期間が想定よりも3ヶ月延びて2月に終了したことにより、エフォートが下がって資料調査に赴けず、旅費を使用できなかったためである。 平成26年度は、当初に想定したエフォートを超え得るような新規業務がないことを部局内で確認しているので、前半期に重点的に、「次年度使用額」も充てて富山県等の資料のデータ収集をおこなう。収集したデータの体系的整理は、人員を早期に確保し、年内に終える予定である。また、これまでに蓄積してきたデータの統括的な整理・編集もそれに並行して進めるが、その際には必要なコンピュータソフトがあれば新規購入する。行為復元のための破壊実験では、蓋然性の向上を目指す反復実験の必要程度に応じて、現代植木鉢を新たに購入する必要も生じ得るが、その場合でも、大型縦長破片の獲得に目標を収斂させて効率化を図り、支出を抑制する。
|