本研究は、ネットワーク分析の理論と技法を用いて、日本列島の国家形成期における社会関係の中心化と成層化の条件と、そのメカニズムを解明することを目標とする。ネットワーク分析は、様々なスケールと内容の社会的行為単位(「アクター」もしくは「ノード」)が取り結ぶ多様な関係が創発する社会的制約、競争、派閥、中心性、権力をノード間の関係構造の数理モデル化、解析により明らかにするものである。 最終年度である本年度は、分析結果の統合・総合分析をおこなった。具体的には、これまでおこなってきた、主に土器の属性変異の共有、地理勾配、搬入搬出関係から析出した弥生時代中期後半~古墳時代開始期の北部九州地域・日本列島西部のネットワーク構造変動と、集落動態、墓地動態等との相関様態を検討した。また、ブリテン島における新石器時代から鉄器時代にかけてのネットワーク構造を概観・整理し、日本列島における同様な軌跡と対比した。 その結果、以下のことが解明された。1)日本列島においては、弥生時代中期以来、一定以上の人的・物的・情報的流通の密度が達成されたネットワーク・エリア内においては、ネットワーク構造が創発した中心性にほぼ対応する形で地域間関係の成層化が達成された。2) ブリテン島においては、ネットワーク・エリアの空間的延長が流動し、構造的中心性の析出が列島にくらべて微弱であった。3)以上の差異が、両地域の国家形成にむけての軌跡の差異の基盤を形成した可能性が高い。日本列島においては、形成されたネットワーク・エリアの空間的延長の安定を基盤として、威信財を中心とする財の入手・分配を通じて安定した統合領域の形成・成層化傾向が深化可能であった。これに対し、ブリテン島においては、ネットワーク・エリアの不安定から威信財を中心とする財の入手主体の位置も必然的に不安定となり、統合領域形成・成層化傾向が発現しても容易に崩壊した。
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