研究課題/領域番号 |
23520930
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研究機関 | 専修大学 |
研究代表者 |
亀井 明徳 専修大学, 名誉教授 (70204633)
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キーワード | 中国陶瓷 / 唐三彩陶 / 越州窯青瓷 / 竜泉窯青瓷 / 貿易陶瓷器 / 浙江省博物館 |
研究概要 |
①今年度は,日本出土の唐三彩陶について,悉皆的調査を試み,三重県斎宮跡,芦屋廃寺,淡路国分寺跡,姫路市坂の下遺跡,赤磐市備前国分寺跡,福山市宇治島祭祀遺跡,熊本市二本木遺跡,山形・城輪柵跡など,従来公表されていなかったり,日本製のいわゆる奈良三彩陶との区別が難しかった破片を調査し,唐三彩陶と認定できる資料を析出した。これによって,東海地方から瀬戸内海の中国地方側,さらに従来から判明している鴻臚館跡などの筑前地域から肥後まで,唐三彩陶の出土地は点から線につながった。しかし,瀬戸内の四国側については,讃岐国府跡の出土の可能性を考え,香川県埋蔵文化財センターの協力を得て,従前の土師器などの出土品を時間を掛けて全て調査したが,発見できなかった。伊予地域についても,聞き取り調査と松山市考古館での遺物調査を試みたが発見できなかった。 ②今年度の研究課題として取り上げていた越州窯青瓷については,浙江省杭州市にある浙江省博物館および浙江省考古文物研究所において,中国を代表する研究者と時間を掛けて討論をし,越州窯青瓷から竜泉窯青瓷が生まれてくる過程と,その時代について,詰めた議論を重ね,一定の成果を得た。しかし,中国側の研究は,2000年頃から停滞しているように感じられた。竜泉市にある竜泉窯博物館と麗水市にある竜泉青瓷博物館はいずれも不祥事が発生しているようであり,研究活動が停止状態にあることが主因と考えられる。北京大学考古学研究室が中心になって調査した竜泉大窯明代窯跡の調査がまとまり,出土品を調査できる状態になり,大きな研究の進展はある。日本出土の越州窯青瓷については,北の多賀城跡から南は喜界島まで調査を行うことができ,一定の成果を得たが,未だ未調査の重要遺跡をのこしている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度研究の目的としていた,日本出土の唐三彩陶の悉皆的な調査に関しては,新発見があり,当初の計画以上に進んでいる。古代の津に近い官衙遺跡などから出土が多いことは,その請来者として,遣唐使船の水手・射手を想定しており,この仮説を展開できる基礎的な資料を今年度は獲得し,この問題に活路が見えてきた。日本出土の唐三彩陶を資料として,古代における日中交易史をまとめる論文が進行中である。 しかし,今年度のもう一つの目的であった越州窯青瓷と竜泉窯青瓷の関係について,新見解を打ち出すには中国側の研究が停滞しており,日本国内の出土資料だけでは論を組み立てるには不足である。よって,合わせて当初計画が大いに進展しているとはいえないが,ほぼ順調に進んでいると自己評価している。
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今後の研究の推進方策 |
25年度は,当初の研究計画に従い,竜泉窯青瓷の編年的な研究を2方向から実施する計画である。一つは,中国福建省および広東省の窯跡と墳墓出土品を洗い直し,わが国出土品との窯跡同定をより厳密に行いたい。具体的に次の3点を実施する計画である。 ①.わが国の重要文化財に指定されている筑紫観世音寺所蔵の青瓷三足壺の生産窯に関して,現在,浙江省の越州窯青瓷とされてきたが,中国南部沿岸地域の青瓷窯の可能性もある。まず観世音寺三足壺を再度厳密に観察して,他の青瓷窯の製品の可能性の有無をさぐる研究を行う計画である。 ②.平安時代後半期に西日本を中心にして出土する中国製青瓷経筒の生産窯を追跡したい。この経筒については周知されている遺物ではあるが,生産窯の研究がほとんど無い。これを解明することによって,遣唐使停止以降の,当時の唐物の一つの交易ルートが明らかにでき,宋商人とわが国の渡海僧侶の動きが見えてくるのではないかと期待をもって,研究を進めたい。 ③.日本出土の青瓷のうち,古代から近世にかけての南西諸島の交易に焦点をあて,薩摩・大隅地方-奄美・喜界島-琉球グスク跡出土品の輸入ルートを時間軸とともに再考する計画である。この課題については十数年前に論文を発表しているが,その後の当該する個々の地域の出土青瓷が大幅に増加しているので,それらを自分の眼で再調査し,前出論文に再検討をくわえる計画である。
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次年度の研究費の使用計画 |
次の2点に研究費を集中して使用する計画である。 ①.中国福建・広東省など青瓷窯出土品の調査について,福建省博物館,厦門大学,広東省博物館等に所属している旧知の研究者の協力を得て現地で調査する。また,全土の考古情報を掌握している泰大樹主任教授と共同して研究を実施する。北京大学考古学教室保管青瓷資料についても調査を実施したい,それらの目的で海外旅費に使用する計画である。 ②.鹿児島県内の遺跡から越州窯青瓷が検出されており,薩摩・大隅地域については,鹿児島県埋蔵文化財センターなどの調査によって明らかになっているので,その成果を吸収する。南西諸島のうち,トカラ列島については十数年前に自身で調査をおこない,その後の新発見は少ないとみられる。奄美諸島については喜界島をはじめとして発掘調査がすすみ,新資料が発見されている。沖縄のグスクを中心とする青瓷資料については,元代から明代前半期の資料は明らかになりつつあるが,それ以前の時期の中国陶瓷器についての研究は不十分である。出土中国陶瓷器の時代がどこまで朔上できるのか,これによって南西諸島全域を,一時は版図としていた古琉球の交易史研究を深化できると考えている。それらの遺跡を調査する目的で国内旅費を使用する計画である。
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