研究課題/領域番号 |
23520931
|
研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
秋田 かな子 東海大学, 文学部, 准教授 (10212424)
|
キーワード | 縄文時代 / 土器胎土 / 粗粒混入物 / 土器型式 / 土器製作技術 / ネットワークシステム |
研究概要 |
本研究は、一遺跡の同時期出土土器の胎土に認められる粗粒混入物類の個体単位のバリエーションをどのように読み解くかといった、土器型式の存在形態の一側面と型式認識の根幹に関わる問題に取り組むものである。本年度は主に各種サンプルの整理を行い、合わせて観察方法の整備・検討を行った。 これまでに神奈川県西部域の地域的指標となる粗粒混入物として、富士山を給源とする火山灰(スコリア)と、粘質土中にもともと混入していたと考えられる海綿状骨針の組み合わせの有効性を措定してきたが、このうちスコリアについて有効性の空間的範囲の把握を行った。スコリアは当該地域の縄文時代中・後期遺跡の遺物包含層・遺構覆土・生活面の土層中に多く含まれており、土器胎土中にスコリアが混入することと、遺跡が当時的な降灰環境下に存在することとは一定の相関を有すると考えられる。そこで遺跡基本土層に基づき、南関東西部域の遺跡における縄文時代中・後期相当層の火山灰の包含状況から等層厚線図の作成を行った。結果、明瞭な堆積範囲は相模川以西、足柄平野までと比較的狭小であること、既に現在の河川・海浜砂等で得ていた所見とも整合的であることが再確認できた。 砂類のサンプルについては、双眼実体顕微鏡下での観察に加え、一部を樹脂(レジン)により固定してプレパラートを作成し、偏光顕微鏡下での岩石・鉱物等の同定所見をより確実なものとした。粘質土および土器片サンプルについても引き続きプレパラート化し、偏光顕微鏡下での観察を行った。昨年度の所見として挙げた粘質土・土器片双方の基質部分の変異は、プレパラート下ではある種の流理構造として認められ、これが顕著なものと焼成感が硬質であることにある程度相関があることが把握できた。 以上のように、これまでの観察成果の補強および、新たな知見を得たことが成果である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の目的には、胎土観察の方法論の確立が含まれていた。研究実績の項に記したように、人工物である土器片と自然界における粘質土の観察の中から興味深い知見が得られたが、このことは双方のもつ複雑性を再認識することにもつながった。 特に粘質土については、サンプルの入手のし難さとともに、たとえば点的に得たサンプルにおいても相当の変異が存在することが判明しており(焼成板における色調、焼成感、基質部分の様相など)、これに対して粘質土の生成過程そのものや、変異が生じる要因が後天的なものなのかどうかに関する見通しが、現状で定まらない状況にある。 また、明確な製作址を持たない縄文時代の土器製作(素材調達のあり方)と、製作後に想定される土器の移動について、恣意的な情報提示にならないような姿勢を維持しつつ、考古学的に解釈を加えていくことがやはり相応に困難であることなども遅れの理由に挙げられる。 このように方法論の確立を巡ってやや壁に直面しているが、一方でこのことはある程度想定の範囲でもあった。したがって、今後も解決の方策を練ることや、限界を認めることも含めて方法論の確立に取り組むことになる。
|
今後の研究の推進方策 |
最終年度に当たる今年度は、考古学的な目的である型式の存在形態について、具体的な時期に絞り一定の結論を導く。 対象とするのは、関東地方において複数の異系統土器が一定量組み合うことが常態と認められている時期である中期後葉期である。特に前半期は、一般に関東加曽利E式圏に曽利式土器が浸透するといった評価がなされている時期となるが、これについて相模川水系に絞り込み、本研究の方法に基づいて実態を明らかにする。また比較対照として後期前~中葉の様相についても扱い、相互の異同あるいは変化を鮮明化した上で考古学的な解釈を加える。同時に前述の方法論上の問題にも取り組み、公開・共有の方法を検討する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
次年度繰り越しの研究費が生じた主な理由は、予備的に予定していた春季休暇中の研究補助員の活動時間が、予定未満だったことによる。このことは研究計画の若干の遅れにつながったが、次年度前半に取り戻すことが可能な範囲である。 繰り越し分も含めた次年度研究費は、主に観察行の旅費、分析費用等として使用し、また必要に応じて研究補助員の謝金に当てる。
|