平成25年度は、前年度の進捗状況を踏まえ地域を神奈川県央を流れる相模川以西に限定し、比較的大規模な縄文中期集落址出土土器数百個体の胎土中の粗粒混入物の観察を行った。主な観察点は当該地域の指標とみなしうる富士起源のスコリア、黒雲母に代表される異なる地質背景に由来する鉱物、海面状骨針の各混入状況、加えて他の岩石砂の種類・組成・形状等である。結果、相模川流域の中期後葉において、甲府盆地近隣を念頭に置いた移入品と見込める個体は多くはないこと、地域内部での土器の移動についても、スコリア・海面状骨針の組み合わせをもつ個体が少なく、相模川以西の中規模集落との間での双方向的な土器の移動も限定的であることなどの所見を得た。 これらの所見は、中期集落の性格差による傾向の違いである可能性や、当時のネットワークシステムの前時期からの伝統による安定化などを考慮して評価する必要がある。しかし、続く後期におけるあり方とは異なることが、より明確になったと言える。今後は各ネットワークシステムと土器型式の存在形態について、研究全体の成果を踏まえて概念化を図った上で公開を行うとともに、補完的な観察を継続する。 本研究全体をとおしての成果として、本来は対象外であった弥生時代以降の土器胎土に関わる見通しを得たことを挙げうる。縄文中・後期に認められた個体ごとの変異は、基本的に時代が下るほど変異を減じ、斉一性を増す傾向にあることが大掴みながら把握された。時代が異なれば土器の製作と消費・廃棄のあり方が変わることは当然かも知れないが、どのように変化するのかということを時代を超え、かつ時代間を相対化して具体的に提示するには、本研究の採った基礎的かつ簡便な観察方法が有効である。地域内部での観察の積み上げの重要性を強調したい。
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