研究課題/領域番号 |
23520932
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
堤 隆 明治大学, 公私立大学の部局等, 研究員 (70593953)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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キーワード | 国際情報交流 |
研究概要 |
本研究においては、日本列島における細石刃石器群の起源とイノベーションについての究明を目的とするが、研究初年度の平成23年度においては、そのベースとなる石器の基礎資料化を進め、資源と人類の関係性を探るための黒曜石産地推定を行い、細石刃石器群の出自を示す資料の調査を実施した。 石器の基礎資料化では、長野県野辺山高原の矢出川遺跡・東矢出川・ハケ立石地区の細石刃石核等の実測・図化を行った。あわせて所属性、長さ・重量・石材・製作技法・型式などの諸属性を記録し、ファイリングをした。とくに矢出川遺跡は、国内に1700か所あまり存在するといわれる細石刃遺跡のうち、上位3位にランクされる出土量(細石刃約5000点、細石刃石核約650点)があるが、今日まで図化・計測などの資料化が十分になされておらず、その基礎的作業を行った。また、黒曜石産地推定においては、研究協力者の望月明彦氏と共同で貴重な文化財を非破壊で分析できる蛍光X線分析によって、矢出川遺跡、東矢出川・ハケ立石地区の50点の黒曜石製の細石刃石核の産地分析を行った。 細石刃石器群の成立に関しては、層位的に先行する石器群のあり方が問題となるが、23年度には、静岡県埋蔵文化財センターの発掘調査によって出土した梅ノ木沢遺跡(静岡県長泉町)の小石刃石器群の資料調査を行い、細石刃石器群との様相の共通性から、その成立に関する手掛かりを得ることができた。 このほか、平成23年11月末に東京上野の国立科学博物館で実施されたアジア旧石器協会に参加し、ロシア・中国・韓国ほか、ヨーロッパの当該期研究の実情について認識するとともに、各国の研究者との最新情報の交換を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の目的である日本列島における細石刃石器群の成立とそのイノベーションの究明を進めるうえで3本の柱がある。第1にそのベースとなる石器の基礎資料化、第2に資源と人類の関係性を探るための黒曜石産地推定、第3に細石刃石器群の出自を示す資料の調査で、その3つの達成度を以下に示す。 第1の石器の基礎資料化では、長野県野辺山高原の矢出川遺跡・東矢出川・ハケ立石地区の細石刃石核等の実測を行い、50点の図化を行い、長さ・重量・石材・製作技法・型式などの諸属性を記録した。図化の点数は150点を予定しており、その1/3を完了した。 第2は研究協力者の望月明彦氏による蛍光X線分析によって、矢出川遺跡、東矢出川・ハケ立石地区の50点の黒曜石製の細石刃石核の産地分析を行い、遺跡の存在する信州系の黒曜石(和田峠・八ケ岳)のみならず、太平洋沖の神津島産(伊豆七島)の黒曜石が搬入されていることがわかり、海上渡航による資源獲得など多様な石材資源利用の様相が明らかになった。分析結果の一部は、堤隆・望月明彦2012「矢出川遺跡の細石刃関係資料と黒曜石産地推定―第6次分析―」『資源環境と人類』No.2 73-82頁 明治大学黒耀石研究センター、に報告した。 第3には、静岡県埋蔵文化財センターの発掘調査による梅ノ木沢遺跡の細石刃石器群に先行する小石刃石器群の資料調査を行った。梅ノ木沢の小石刃には使用痕らしき微細なキズも観察され、細石刃と同様な使用法も想定され、両者の共通性はその成立に関する様相を暗示しているのかもしれない。関東地域での同様な石器群の調査を今後継続したい。 なお、列島内の細石刃遺跡の成立にかかわる石器群の資料調査については、上記1、2の基礎資料化に力点を置いた分、北海道等遠隔地の細石刃石器群の調査が実施できず、少し出遅れることとなった。また、石材環境調査についても、翌年度以降の課題として残った。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目的である日本列島における細石刃石器群の成立とイノベーションについての究明のため、以下の方策で研究を推進する。 1:細石刃石器群の資料化。矢出川遺跡の個人採集資料を中心に細石刃・細石刃石核の図化・属性記録などの資料化を進め、学会誌に資料報告を行う。 2:蛍光X線分析による非破壊原産地同定の続行。研究協力者の望月明彦氏との協働による原産地推定を継続し、学会誌に分析報告を行う。とくに矢出川遺跡・東矢出川遺跡・中ッ原遺跡5B地点・中ッ原遺跡1G地点・柳又遺跡A地点・柳又遺跡C地点等、信州中央高地を主とした細石刃石器群の産地構成を明らかにし、黒曜石獲得パターンを追求する。 3:九州から北海道に展開した列島各地の細石刃石器群と朝鮮半島の細石刃石器群の資料調査を実施し、その成立から展開に関する様相を把握、諸地域への技術拡散や技術革新について究明する。あわせて各地域の石器石材環境を調査し、細石刃石器群の石材利用の特性について研究する。 4:細石刃石器群に関するシンポジウムを平成24年度に開催し、研究の諸課題を再認識し、後半の2年間の研究につなげる。あわせて、研究で扱ういくつかの細石刃石器群を博物館展示、復元画や概説パンフレットなども作成し、ひろく一般市民にも細石刃石器群についての解説を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究費の使用計画において、謝金としては、長野県野辺山高原地域の細石刃石器群の図化など基礎資料化を進めるための研究協力者の謝金、信州中央高地を主とした細石刃石器群の蛍光X線分析による産地推定のための協力者の謝金等に科研費を使用する。旅費では、研究代表者の北海道から九州にいたる国内の細石刃遺跡、韓国等国外の細石刃遺跡や旧石器時代遺跡の調査のための旅費、平成24年7月に予定しているシンポジウム「細石刃石器群研究へのアプローチ」での招聘発表者の旅費の支出を予定している。その他消耗品など物品費や、シンポジウムレジュメの印刷製本費を使用する計画である。以下を支出予定である。物品費 30,000円旅費 420,000円人件費・謝金 200,000円その他 192,985円
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