本研究の目的は「日本列島における細石刃石器群の成立とそのイノベーション」の究明である。まず、最終年度においては研究テーマに関し、採択された4年間の研究を点検し、次の成果としてまとめた。1:日本列島の最大級の細石刃石器群である矢出川遺跡の研究基礎資料としての図化・属性データ化・産地分析(約1500点)・細石刃技法の成立とイノべ―ションの解明、2:中部関東地域の細石刃石器群の産地推定の集計化、3:日本列島の北海道から九州まで1792細石刃遺跡の英文データベース構築とインターネット上の公開(http://www.avis.ne.jp/~tsutsumi/)、4:それらの総括としての研究論文・研究報告の提示、5:市民への普及公開としての博物館展示である。 研究期間全体の成果では、日本列島各地の細石刃石器群を実見し、まずどのような研究を行うべきかという方法論的なテーマのシンポジウム「細石刃石器群研究へのアプローチ」を2012年に開催し、9の研究発表と討論により課題点を探った。またその成立に関しては、2013年に「日本列島における細石刃石器群の起源」のシンポジウムを開催、列島外からの伝播、列島内での自生と対立する研究者の見解を含めた12の研究発表と討論がなされた。研究代表者自身は、従来の石器群伝統の内在的発展とともに、押圧剥離と言われる新たなテクニックが伝播したことによって、細石刃技術が成立したというイノベーション仮説を提示した。なお、最終年度のみならず研究期間全体を通じても、細石刃石器群の研究基礎資料としての図化・属性データ化・産地分析を行った。また、さきにも述べた列島の1792の細石刃石器群の英文データベースの情報発信を行った。 一般市民に向けては、普及講演会(3回)、企画展示(3回)により、細石刃あるいは旧石器というやや難解な考古学研究の成果と意義を平易に伝えるべく努力した。
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